weekly business SAPIO 99/8/26号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
《欧米人の目を見張らせたハイテク機材を駆使した日本のトルコ地震救援活動》
8月17日未明、たった45秒の間に震度7.5という地震が、トルコの北西部を襲った。損害額はトルコ商工会議所がざっと見積もっただけでも200億〜250億ドルに上るといわれている。とくに今回被災地となった一帯は、イスタンブールを中心にトルコの国内総生産の半分を支える産業工業地帯である。外資系企業が多く、ドイツや日本の企業も進出し、トルコの中ではもっともヨーロッパ化が進んでいる(例えば日本企業のトヨタやホンダ、ドイツ企業のマンネスマンが進出しているイズミル市は、20年前までは沼地だったが、外資系企業の進出で急激に発展した都市)。したがって今回被害を受け現在死者4万人に及ぶこの一帯の住民は、中産階級と新興成金階級に属している。
さて、今回のトルコ地震だが
1. 外資系企業の工場や事務所の建物は、この一帯が地震地帯である事を熟知して、建築規則を厳守して建てられたため、被害は比較的少なかった。例えばドイツ企業がこの一帯に約400社進出しているが、被害を蒙ったのは35社に留まり、さっそく地震災害の翌日より稼動を開始した企業も少なくなかった。
2. 二階家と平屋の被害も僅少ですんだ。これは、1974年ごろまで、高層建
築建設禁止の建築規制があったためだといわれている。
それなのになぜこうも今回被害を大きくしてしまったのか。その理由だが、
1. 北西部の産業化が進むにつれ、農村から都市への人口移動が急速に進んだ。都市人口が膨らむにつけ、この厳しい建築規制は形骸化してしまった。とくに6階、7階建の一般住居建築では、建築マフイアが横行し、地方官吏と建築業者間の賄賂がはびこり、安普請や手抜き工事が常套化していた。例えばイスタンブール市の60%以上の建物は何らかの建築欠陥の対象になっているといわれている。
2. トルコには官尊民卑の傾向が強く、今回イスラエルから救援隊がトルコに送り込まれるにあたって、トルコ政府は住民救出を放置したまま、被害を受けた軍隊
救援を最優先してしまった。
3. 上は政府、下は地方自治体の官吏に至るまで、非常事態における認識の欠如が目立ち、いたずらに無為無策に終始してしまった。今回トルコ軍隊よりも早く救援に駆けつけた国際救援部隊だったが、せっかくイスタンブール空港に到着しても、現地救援振り分けや交通手段の手配に手間が掛かり、24時間も足止めされてしまった救援隊も少なくなかった。痺れをきらせたあるドイツ救援隊は、自力で交通手段を調達し、被害地での救出作業に当たった。
こうしたトルコの地震における不手際だが,内外で指摘されるのを見ていると、何やら95年の阪神大震災当時の政府や自治体の不手際をほうふつとさせるから不思議だ。
もっとも今回のトルコ地震における日本側の迅速な対応は賞賛に値する。地震発生当日の夜には早くもトルコへ発った日本の緊急援助隊の一行は、ハイテク機材を縦横無尽に駆使し、地震発生後50数時間ぶりに、がれきの下から74歳の女性を救出した。ドイツでは、この救援活動が驚異の的として、大々的に報道されたものだ。
欧州の災害救援隊といえば、普通犬を使う。ただし、犬による救援活動は48時間が限度で、それ以上となると休養を必要とする。さらにがれきの中で救助活動をするためガラスの破片を踏むなど怪我をする犬も多い。というわけで、日本のハイテク救助活動は、ドイツをはじめ欧州各国の救助隊の目を見張らせることになった。さらに、テレビや新聞社、日本赤十字社を通じての大々的な一般市民への募金呼びかけ運動も欧州では注目の的になったものだ。
しかもラッキーなことに、ゴールデンウイークを利用して欧州で公式訪問を行なっていた高村外相が、5月3、4日のコソボ紛争に対するG−7緊急外相会議に上手くその機会を捕らえて参加し、日本もコソボ復旧支援に積極的に手を貸すことを約束して欧米諸国を感激させて見せたように、今回もまた、夏休みを利用してイラン、トルコ、オーストリア入りしようとしたところで、トルコ大地震のニュースに接し、さっそくタイミングよく被災地視察を実施している。きっと阪神大震災の失敗が今回、その教訓として生き、このような敏速な活動となって実を結んだにちがいない。
ちなみにドイツは救援隊200人を現地へ送りこみ、石油精錬所の火災消化活動では飛行機と専門家を派遣し、フランスやトルコの消化隊とともに消化活動を行なった。寄付活動も自治体、教会を通して活発に行われている。
もっともドイツは日本と違ってトルコとは距離的に近い上、約250万人ものトルコ人が在住しているのだから、当然といえば当然なのだが。
最後に一言。こうした各国のめざましい活躍ぶりが世界のマスコミで報道されることにより、実はその国の宣伝につながり、ひいては間接的に製品売り込みのきっかけになっている。日本もようやくそのことに気ずき始めたということか。歓迎すべきことである。
なぜなら今や目先のそろばん勘定だけで損得をいい,商売をする時代は過ぎ去ったといってもいいからだ。
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発行 小学館
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