weekly business SAPIO 99/7/15号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《“瀕死の羊に鷹が群れるよう”― コソボ特需を狙うEU諸国の実態》


 特需には汚職がつきものである。今回はその特需を巡るさまざまな欧州とその周辺諸国の表情を捉えてみることにした。
 まずボスニア・ヘルチゴビナ紛争だが、この紛争が終焉したのは1995年12月、アメリカ・デイトンにて和平協定が締結されたからである。この和平協定終結後、この地域の復興を巡っては98年に限ってその復興支援資金は4300万マルク(分担率はEU50%、アメリカ20%、日本10%)とされた。現在この復興支援組織では、各国が送りこんだ職員が約500人働いている。もっともこの人選だが、表向きは厳選主義を貫き、優秀な人材を送り込んでいることになっているものの、その実、中には、会計検査が寛大なのにつけこんで、ろくに仕事もせず私服だけを肥やしている者がいるというのがもっぱらの評判である。

 そういえば、今年3月にサンテイール委員長率いるEU委員会が辞職に追い込まれたのも、汚職がその原因だった。結果、全員総辞職という事態に追いこまれてしまったものだ(このサンテイール体制はよほど汚職に縁のある委員会だったらしく、ドイツが送りこんだ自由民主党出身のバンゲマン委員は、辞職にあたって、スペインの電信電話事業『テレフォニカ』に天下りが決まっていたことが判明、ドイツの自由民主党内からはもちろんのこと、EU議会でも糾弾の声が挙がり、今や、辞職にあたって支給されるはずの年金=月額1万4000マルクがふいになりかけている)。

 こうした汚職ですっかり地におちた欧州委員会の名誉を挽回するためか、7月9日に発表されたプロデイ欧州委員長を長とする新体制は、地味で堅実なものとなった。
 中でも、とくに注目に値すると思われるのは、ドイツのシュレーダー首相が送りこんだ社会民主党員フエホイゲン委員で、彼はEU拡大委員というポストを獲得した。先にコソボ復興を担うコソボ自治州復興問題特別調査官にシュレーダーの右腕だったホンバッハ首相府長官が選出されたこともあって、ドイツは、コソボ復興を中核とした南東欧振興策では、2つの重要ポストを獲得したことになる。さっそくこれを受けて、ドイツの各州の商工会議所の活動が活発になりはじめた。当面はベーカリー用のパン製造機会社や、大工やとび職をふくむゼネコン関係に発注が多いという。

 コソボをはじめその周辺国(マケドニア、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、クロアチアなど)がドイツに熱い視線を注ぐのも分からないではない。
 これらの国はコソボ復興を機に、その支援にありつこうとしているうえ、いつかはEU入りを狙って虎視眈々としているからである。
 こうした中で、今また、ユーゴに所属しているモンテネグロ(人口65万人)も市民の62%がユーゴからの独立を望んでいる。理由は、この地域にはこれという産業がなく別名「マフィアの国」として盗難車と密輸車、たばこ密輸では世界一という汚名をちょうだいしているからだ。それゆえ市民は1日も早く正常な産業を興したいと願っている。今回の欧米先進諸国や日本の復興支援は、その絶好のチャンスと踏んでいるのだ。

 一方ユーゴ国内でも、こうした周辺国の特需ブームから取り残されまいとして、「ミロセビッチ体制が続く限り、欧米諸国はユーゴ復興にいっさい手を貸さない」というクリントン大統領の発言を重く見て、日増しにミロセビッチ退陣要求の声が高まっている。
 ミロセビッチ側も負けてはいない。これに対抗して、

1.モンテネグロにおけるユーゴ軍を通常の2倍に強化し、約2万人の軍隊を駐留させ、警察と秘密警察による、市民への監視を強め、最終的にはクーデターを画策し、現モンテネグログン大統領の転覆を図っている。
2.その一方で、ミロセビッチ一家は、3月24日、NATOのユーゴ空爆を機会に3カ月という突貫工事で、1ヘクタールの娯楽施設「バンビー・パーク」をベオグラードより60キロ離れたミロセビッチのふるさとパバルバック(人口6万人)に作った。

 こうして、懸命に市民のご機嫌を取ろうと努めている。
 しかし、一度国民の信頼を失ったミロセビッチ一家(豪邸はNATOの空爆によって破壊、スイスに隠していた莫大な金は凍結、その上ハーグ国際法廷では、戦争犯罪人として起訴された)である。その一家に向ける市民の目は鋭い。とくに兵役を逃れ相変わらずプレイボーイ振りを発揮している25歳の息子に、「なぜ、自分たちの息子だけが兵役を務めなければならないのか」という不満の声が母親の間で起こっている。

 こうしたミロセビッチ不信が渦巻くなかで、先に紹介したドイツの復興策をはじめ、国連やEU諸国は、さまざまな企画を立てては、まるで瀕死の羊に鷹が群れるように、復興支援という名の特需に群がっている。その実これらの復興資金がどれだけ本来の復興資金として正常に運用されるものか、不明である。
 とくに今回ロシア軍3600人が、“歓迎されざる支援軍”として米、仏、独軍のテリトリー下に派兵される(ボスニア・ヘルチゴビナにおける目に余るロシア軍
の復興支援金の悪用は周知の事実である。本国では給料未払いが慣例になっており、唯一、海外派兵によって、その生活の糧を得ようとしている兵隊が多いからだ)に当って、疑問の声は日増しに高くなっている。コソボ・アルバニア人の間では、「恐らく、ロシア軍は地元のセルビア人とぐるになって、復興支援金を横取りするのではないか。そうでなければ、再びコソボ・アルバニア人弾圧を企むはず」との風評さえ後を絶たない始末である。

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