weekly business SAPIO 99/5/13号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆ドイツでは「やらせ」と見ている中国学生の反米デモ◆


中国大使館が、NATOによる対ユーゴスラビア空爆で爆撃を受けたのは現地時間の7日午後11時50分ごろである。
さっそく5月9日付朝日新聞の朝刊は一面トップで「中国大使館を誤爆」とした上で、これみよがしにNATO批判を展開。「紛争解決交渉に影」「中国反発強める姿勢」とし、さらにNATOの軍事力にも触れ「NATOにとって予想外の誤算」
とする軍事アナリスト小川和久氏のコメントとともに「ハイテク空爆に限界、対空砲恐れ精度低下」という見出しを掲げている。

しかもご丁寧なことに、これまた当日の社説は「国連を軸に停止へ動け」という見出しで「人びとを殺させないために、別の人びとを殺してしまう。いま大切なのは、この矛盾を一刻も早く解くための努力である。それには、国連を軸とした打開への動きを、着実なものにしていく以外にない」と説いている。
一方、日本経済新聞の見出しは「大使館誤爆、学生らデモ・投石、コソボ和平、不透明さ増す」である。

恐らく欧米人は、このような見出しや記事を目にすると、一瞬、日本の大新聞とは、中国の出先機関でありその機関紙と勘違いしてしまうのではないかと思う。
例えば、中国の学生デモ一つを取ってみても、ドイツの新聞によると中国政府や当局が「やらせ」を半ば学生や生徒に強要していると報じている。

というわけで、これまでのバルカン紛争の背景やいきさつに照らし合わせてみるまでもなく、中国大使館がNATOの誤爆に遭い、ヒステリックに騒ぎ立てているからといって、NATOにとっては痛くも痒くもないのだ。

事実5月10日、ブリュッセルのNATO本部で行なわれたシェイ報道官の記者会見でも、氏は「誤爆は誤爆として認め、2度とこのようなミスを起こさない」と誓った上で、「NATOの戦略はシナリオ通りに進行しているのであり、ミロセビッチがNATOの条件をのまない限り、空爆は今後も継続していく」との固い決意を語った。

その背景には
1.欧米諸国が90年の初めに勃発したボスニア内戦で、長い間軍事介入を躊躇したために、ミロセビッチ一派をのさばらせ、その挙句民族浄化や大量虐殺への道を明け、多くの犠牲者を出すことになってしまった。

2.国連による調停も、とどのつまりミロシェビッチに明石氏ら調停役が手玉に取られてしまい、その結果、せっかく派遣した国連平和維持軍も、逆にセルビア軍に包囲され、その蛮行の前ではまったく無力であることをさらけだしてしまった。

3.95年、ミロセビッチがデイトンの和平案にゴーサインを出したのは、NATOの空爆という軍事圧力に屈服したからで、このとき欧米諸国は、「言葉では負けないミロシェビッチだが武力にはめっぽう弱い」のを見ぬいてしまった。
ことがある。

なお、NATOのハイテク空爆力だが、これまでのユーゴ空爆で合計1万9000機が空爆に参加したが、撃墜されたのはうち2機だけで、その機動力はまったく衰えていない。
ちなみにユーゴの軍事力だが、これまでのNATOによる空爆で、軍用機の半分は破壊され残りもスタート(=離陸)不能。戦車は燃料がなくて動かせない、兵隊の士気も日増しに落ちこんでいる。

さらに今後のユーゴ対策についてだが、5月5日と6日の両日、クリントン大統領がドイツを訪問。フランクフルト空港で行なわれた記者会見で、「ほぼ峠は越した。
あとはじっくりと時間をかけて仕上げていく」と語り、またシュレーダー首相とともにドイツが引きうけたコソボ難民の難民キャンプを訪れて、「あなたたちを必ず故郷へ帰す」と約束したように、さらにユーゴ対策を強めていく方針である。

具体的には
1.EUによるミロセビッチとその家族、全閣僚、政府高官、経済界の人物など約300人のビザ発行禁止とEU入国禁止
2.ユーゴ関連海外企業の資産凍結
3.ユーゴ政府や政府系機関、個人への輸出信用供与禁止

などで対処しようとしていることがあげられる。

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