weekly business SAPIO 99/4/22号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆新・国会議事堂の室内デザインを英国人に任せたドイツの「首都移転」◆


 ドイツでいよいよ首都移転が本格的に進んでいる。今回はまずその話から始めたい。
 首都移転については日本でも取り沙汰され、石原新知事は、もしかすると最後の東京”都”知事になるのではないかと噂されていいるそうだが、当地ドイツでは、すでにドイツ統一直後(1992年)にボンからベルリンへの首都移転が決定、2000年移転を目指して着々とその工事が進行していた。

 このたび、ベルリン国会議事堂=ライヒスターク改築が終了、ボンからベルリンへ連邦議会が移された。その記念式典が4月19日午前11時に行なわれ、続いて12時にはベルリン・ライヒスタークにおける初の連邦議会が開かれた。
 ちなみに改築総工費は6億マルク。圧巻は中央のガラス張りのドームで、これは ドイツの政治が今後も、戦後50年間ボンで行なわれた民主政治と同様、いつまでの透明であるようにとその祈りを込めて全部ガラス張りにした。

 室内装のデザインは英国人ノーマン・フォースター氏が担当した。記念式典で挨拶に立った氏は、「ちょうど7年前に世界中のデザイナー13人が集まり、コンテストが行なわれ、自分が選ばれた。国会議事堂=ライヒスタークといえば、国民の象徴である。そのライヒスターク改築だから、本来ならドイツ人が担当すべきなのに、英国人である自分が担当することになった。当時その喜びはひとしおで、今もその感慨には言葉に尽くせないものがある」と語った。

 その後、引き続き、挨拶に立ったティルゼ国会議長とシュレーダー首相は、幾分ニュアンスは違ったものの、それぞれ

1.「偏狭なナショナリズムに固執した忌まわしいナチという歴史を背負い、そのため第二次世界大戦後、半世紀にわたって苦難の道を歩んできたドイツとしては、今後西側におけるヨーロッパの一員として、東欧諸国の政治や経済発展に貢献するためにも、こうした配慮は当然だった。ちなみに、この国会議事堂改築建設現場では17か国の土木建築労務者が工事に従事した」
 
と述べた上で、今回のコソボ紛争にも触れ

2.「不幸なことには違いないが、こうした時期の紛争勃発で、ドイツははからずも、国際社会における西側の一員としてその手腕を試されることになった。その結果、ドイツは率先してその義務と責任を遂行することになり、感無量である」と結んだ。

 しかし、それにしても、歴史とは皮肉なものである。ドイツが第2次世界大戦に破れ、東西に分断されている間は、ヨーロッパは平和だった。ところが、そのドイツが統一を果たし、ようやく欧米各国、とりわけ米英仏からの要請で本格的にその仲間入りを果たしたとたん、よりにもよって、そのヨーロッパで戦争が起こってしまった。

 さてNATOによるユーゴ空爆だが4週目に入った今も、日本のマスコミは、相変わらずセルビア寄りの報道を続けている。とくに14日の空爆でアルバニア系避難民64人が死亡したニュースでは、NATOが誤爆を認めたこともあり、まるで日本のマスコミは鬼の首を取ったようにNATO非難を展開している。

 しかし、これもよくみると早とちりとしかいいようがない。19日に行なわれたNATOの記者会見で、作戦展開を指揮するリーフ司令官が発表した内容でも明らかなように、当地ではどうやらセルビア側の演出ではないかと見られる不審な点が2,3指摘されている。

主な点は、

1.西側の記者たちが事件後1日経たのち、さっそくユーゴ連邦軍の手配したバスに乗って現場を訪れていることから、明らかにユーゴ側のプロパガンダと見られる気配が感じられる。

2.さらに、4月17日「インターネット・Yomiuri ON-Line」で入手した記事によると、
事件に遭遇した現地の男性が 「『軍から、当日、この道をプリズレンに向かって進むよう指示された』と話し始めたところで当局者が記者団からこの男を引き離し、近くに連行した。ユーゴ側は、今回の事件を『戦争犯罪』として非難しているが、アルバニア系住民を『人間の盾』とするなど、誤爆を誘発する動きがあった疑いは否定できない」

とあるように、当日、ドイツでも放映されたテレビの中で、NATOを非難している目撃者の一人が、ドイツ人記者の誘導質問に引っかかって、突然に流暢なドイツ語で話し始め、さっそく記者に問い詰められて当惑している様子がクローズアップで映し出された。

 いずれにしろ、こうした奇妙な場面を目撃すると、西側はそうしたミロセヴィッチ一流のトリックには、過去さんざん振りまわされ、煮え湯を呑まされた苦い経験があるだけに、今回も狡猾なトリックではないかという疑惑が抜けきれない。
 それはさておき、ここ1週間のユーゴ紛争におけるNATO主要国の動きだが、この激しい空爆によるユーゴの主要産業とインフラの破壊も終盤に入り、したがっていよいよ地上軍派遣への下準備が整い始めたのか、当局は明言は避けているもののそれらしい発言が目立つようになった。

 そうした中で、ドイツは軍事面というよりはむしろ外交面や人道支援に精力を注ぎ、むしろそうした面で点を稼ごうとしている。

 主なものを三点挙げると、一つはロシアの孤立を避けるため、アメリカとロシアの仲介役として橋渡しを行なっている。外交面ではオルブライト国務長官とイワノフ外相会談実現。経済面では、民間レベルで独・露の経済史上最大規模の提携といわれているドイツ化学コンツェルン・BASFとロシア最大の天然ガス開発会社・ガスプローム社とのロシアにおける石油と天然ガスの共同採掘契約を結んだ。

二つは、ミロセヴィッチとその一派をハーグの法廷に戦争犯罪人として引き渡すためにドイツ国防省では着々とその証拠固めを行なっている。とくにミロセヴィッチの側近で、アーカンと呼ばれセルビア地下のボスとして闇の世界を取りしきっているばかりか、ユーゴスラビア秘密警察のスパイとして1970年代西側で暗躍し、ベルギーの官憲に逮捕されたものの脱獄し国際警察=インターポールのお尋ね者として指名手配を受けているゼリコ・ラズナトヴィック(45歳)の逮捕に全力を挙げている。

ちなみに彼の妻はセルビアのフォークシンガーとしてナンバーワンの人気歌手“セサ”(24歳)で、今回のNATO空爆では、セルビア民衆(とくに若者)をベオグラード広場に集め、反戦(反NATO)キャンペーンを張り、連日のごとく大々的な大コンサートを開催している。

三つは、マケドニアに駐屯するドイツ連邦軍の人道支援活動で、例えばこの紛争でセルビア民兵の残虐な行為で両親を失い孤児となった約2000人のアルバニア児童を集め、キャンプの一部に“にわか学校”(机やイス、教材はユネスコから提供)を創立するなど、難民支援強化に務めている。

 こうしてみると、NATOの対ユーゴ作戦は、これまでのところ、4月8日号の拙稿でレポートした通り、筋書き通りに進んでいるようだ。

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