weekly business SAPIO 99/3/18号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆「ドイツで最も強い男」と言われた蔵相の突然の辞任の真相とは?◆


 寝耳に水というか、いきなり爆弾をしかけたというか、3月11日〈木〉午後5時47分、これまで,ドイツでもっとも力のある強い男として、良きにつけ悪しきにつけ、その行動が注目されていたラフォンティーヌ蔵相が辞任すると発表した。
その上社民党党首や連邦議員という公職からも身を引き、今後は一市民に帰るという。

 では、なぜラフォンティーヌは、このような突然の行動に出たのか。
 辞任後自宅にこもっていたラフォンティーヌが、はじめて公けに姿を見せたのは14日〈日〉。この日,記者団の質問に答えて、彼はその理由を「社民党内のチームワークの欠如にある」と語っている。

 確かに彼の指摘には一理あり、間違ってはいない。16年にわたったコール政権を倒すために、社民党はラフォンティーヌを参謀役に、そしてシュレーダーを前面に押し出し,英国の労働党に倣い,中道政党を目指すとして選挙民に訴え勝利した。

 ここまでは社民党の「チームワーク」は良好だった。だが、シュレーダーが首相に任命されたというのに、緑の党との連立政権が成立するや、一挙に党内はラフォンティーヌ色に染め上げられ、ともするとシュレーダー中道路線は形勢不利となった。
その気配を察して、急遽シュレーダー側が巻き返しをはかり、ついにラフォンテイーヌの追い落としに成功したといわれている。

 この背景だが、
1.景気の悪化:
 ラフォンティーヌの背後には巨大な労組組織がある。その組織をバックに次々と労働者優先政策を手がけようとした。だが、そのため企業側はいっせいに警戒、企業側のサボタージュともいうべき外国企業のドイツ投資離れや国内企業の空洞化が一挙に進み、雇用市場は悪化、同時に株価の低迷に繋がってしまった。

 事実、本来ならニューヨーク株に連動してフランクフルト株も上昇するはずなのに、ラフォンティーヌ蔵相就任後、ドイツ株は下がり続けた。
 ちなみにドイツの平均株価(マルク)は、3月8日(月)4788.65,9日(火)4758.46、10日(水)4721.41、11日(木)4754.41(この日ニューヨークの平均株価は9897.44だった)と低迷だったが、ラフォンティーヌ蔵相辞任の知らせと同時に、12日、いっきょに平均株価は上がり、最高値5100(+7.3%)、終値5008.16(+5%)をつけている。

2.内外での孤立:
 「ユーロ」誕生を前に、ラフォンティーヌ蔵相はフランスのシュトラウス・カーン蔵相と手を組み、“中央銀行の独立性”に水をさし、「ユーロ」の番人=欧州中央銀行に逆らい、金利の利下げを迫ったり為替相場の目標相場を提唱するなど、欧州中央銀行ドイゼンベルグ総裁やドイツ連邦銀行ティートマィヤー総裁をはじめ、「ユーロ」参加国の各中央銀行、さらに米英の中央銀行からも顰蹙を買ってしまった。

 その挙句、欧州の歴史に刻まれる最大行事とされた1999年1月1日ブリュッセル開催の「ユーロ」成立記念行事も、ミューラー経済相を代理として送り,当人は家族とともに休暇に出かけて欠席するほど、孤立無援となってしまった。

 というわけで、このラフォンティーヌの突然の辞任だが、国内における企業側に立って景気回復をはかろうとするシュレーダーと、労組側に立って労働者の権利を維持しようとするラフォンティーヌとの対立というだけでなく、実は、その飛び火は海外にまで広がり、グローバル化を推進する英米(とくに英国)側=シュレーダーと、それを阻止する仏側=ラフォンティーヌとの熾烈な政争に発展した。その結果、ついにラフォンティーヌが白旗を揚げた(と当地では解釈されている)。

 では、ラフォンティーヌ無き後の今後のドイツ政局はどう変わっていくのか。
1.まず、シュレーダーの一人舞台となった。
 さっそくシュレーダーは、つい1か月前に行なわれたヘッセン州選挙で敗れ、閑職になるヘッセン州首相アイフエルを蔵相に任命し、忠実な手下とすることにした。
そのアイフエルだが、顔つき体型からして、「経理課長」というあだ名を頂戴しているように、世界の舞台で活躍する器ではない。

 ただ、ヘッセン州で8年にわたり緑の党と連立を組んだ経験があり、緑の党をうまくあごで使う術に長けている。まとめ役(日本の政治家にたとえると小渕首相的 )としては最適との評価がある。シュレーダーはそのアイフエル新蔵相を仲介役として、緑の党との連立政権を継続する。

2.その上で、緑の党が、緑の党シンパのラフォンティーヌという支柱を失って、いっそうラジカルになり、従来、緑の党が掲げてきた政策〈一例“脱原発”〉の実現を強行しようとするならば、時期を窺って緑の党との連立を解消し、新たに自由民主党との連立を組む。(事実、社民党は今回外国人の二重国籍問題では、緑の党案を斥け全面的に自由民主党案を採択してしまった)

 とはいえ、ラフォンティーヌが切り捨てられたことで、社民党内のラフォンティーヌ・シンパがこのまま黙って大人しく引き下がるとは思えない。この辺をシュレーダーはいかに処理するつもりなのか。しばらく落着するまでには時間がかかりそうだ。

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