weekly business SAPIO 99/2/4号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆「ユーゴ紛争問題」でわかった 「ロシアはすでにNATOの傘下に入った」◆


 年明け早々、またも、ユーゴがきなくさくなってきた。今回は、恐らく軍事介入は回避されるだろうということを前提にこちらのマスコミで報道されたこの一件について手短くまとめて見ようと思う。

 ことの発端は、先月15日、セルビア共和国のコソボ自治州南部のラチャクで女性と子供を含むアルバニア系住民45人の惨殺された遺体が発見され、翌日コソボ駐在中の全欧安保協力機構(OSCE)国際停戦監視団による調査でその真犯人がセルビア特別警察隊であることが判明したからだ。

 さっそくこれを受けて17日夜、NATO=ブリュッセルでは大使館クラスの各国代表が緊急理事会を開催し、昨年10月に一度無期限延長された軍事介入決議が有効であることを確認するや、これまでの柔軟な姿勢をかなぐり捨てて、武力による解決も辞さないとの強硬策に転じている。

 その一連の動きから見てみよう。
 まず、アメリカでは、事件直後エリツィン大統領の病気見舞いを兼ねるとして、オルブライト外相がロシアを訪れ、ロシアの意向を探っている。その後、1月30日には、英国のクック外相がユーゴとユーゴの隣国マケドニアを訪れミロセヴィッチ大統領やアルバニア側のリーダーと会っている。

 一方ドイツは同日、国防相シャーピングがマケドニア駐在のドイツ連邦軍(=コソボ紛争監視ミッション)を訪れ、緊急の際の出動を指示し激励している。そして最後にフランスはユーゴとコソボに最後通告期限を2月6日と通達したうえで、その和平会議の会場を提供すると発表した。

 こうした下準備が整うや、NATO理事会では、もし当事者が和平交渉を拒否した場合、ソラナ事務総長に空爆の判断を一任する事を決定し公表した。
 その大命を受けたソラナ事務総長は週明けの2月1日、ドイツを訪れシュレーダー首相、シャーピング国防相、フィッシャー外相と会見し、全面協力の確約を取りつけている。しかも、そのソラナ事務総長と入れ違いに、今度はロシア側の国防担当官がシュレーダー首相とシャーピング国防相を訪れている。

 この会談の内容は明らかにされなかったが、その前日シャーピング国防相は「ウエルト」紙のインタビューに応じ、今回のロシアの対応について「ロシアはむしろあの虐殺事件を知って、ミロセヴィッチ大統領には失望し、このような残酷な事件が発生しないようにするために、ミロセヴィッチ大統領と距離を置くとの見解を示している」と答えていることから、すでにロシアは西側(=NATO)の傘下に入ったと確信しているようだ。

 いいかえれば、西側(=NATO)にとって、ユーゴ紛争の勝負はすでに決まったも同然、いまさらいかにミロセヴィッチ大統領がチトー大統領時代の「大ユーゴ主義」を夢見て抵抗しても、追い詰められたネズミ同様、勝ち目はないと見ているのだ。

その理由だが、
1)これまで頼みの綱だったロシアが、昨年8月のロシア経済危機をきっかけとして、西の援助なくしては再起不能なまでに落ちこんでいる。それゆえに、ロシアは西側のいうなりになってしまった。
2)冷戦構造崩壊とともに、スロべニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、そして今またコソボもユーゴから離脱しようとし、ユーゴ自体が末期的な状況にある。
3)ユーゴ国民自身も、10年にわたる内戦で疲労しきっている。その上軍隊内にも厭戦ムードが漂い士気が落ちている。

 ただ、ドイツ側としては今のところ、「転んでもただでは起きないしたたかなミロセヴィッチのこと、たぶんギリギリになって和平交渉に臨むだろうが、その交渉は少しでも自分にとって有利に運ぶために、うんざりするほど長引かせ、いつまでたっても終わりのないだらだらしたものになるだろう」と予測している。

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発行 小学館
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