weekly business SAPIO 99/2/11号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆若者のシンボルだった「緑の党」はなぜ保守主義に敗れ去ったのか◆


 46年にわたって,ヨルダン国王としてその治世に当ったフセイン国王が2月7日に死去した。死因はリンパがん。63歳だった。中東のバランスメーカーとして君臨したフセイン王の死は,中東をはじめ欧米、さらには日本の政治経済両面で、少なからず影響をもたらすことはまちがいない。それかあらぬか、早くもドイツでは、フセイン国王亡き後の懸念材料を並べ立て、取り沙汰し始めたようである。

 これについては、別の機会にレポートするとして、ちょうどフセイン王死去の日、ドイツのヘッセン州(ユーロの拠点フランクフルトのある州といった方が分かりやすい)で州議会選挙が行われ、早くも現シュレーダー政府に一撃を食らわす結果がでてしまった。今回は、なぜこのような結果をもたらしてしまったのか、その背後関係と要因について記述しておこうと思う。

 まずその前に、ヘッセン州について手短かに紹介しておきたい。
 この州は、人口590万人強で、全16州中、人口面では第4番目に位置する州である。州の首都は温泉町で知られるヴィースバーデンだが、この州における最大都市は人口60万人の金融都市・フランクフルトである。その他にも、フランクフルトを中心に、近郊にはダルムシュタットやオッフェンバッハ、カッセル等の小都市が控えている。

 ところで、この州の政治面における特徴だが、伝統的に革新色が強く、戦後50年間、州政権はほとんど社民党によって牛耳られてきた。そのため、今回の州選挙予測でも、当然、選挙前日まで“社民党大勝”は確実視されていた。

 理由はいうまでもない。
1)昨年9月27日、連邦議会では16年間にわたるコール連立政権(キリスト教民主同盟+キリスト教社会同盟+自由民主党)が敗れ、社民党が圧勝し社民党+緑の党によるシュレーダー連立新政権が誕生してまもないことでもあり、保守系の勝利はありえないと信じる者が大勢を占めていたこと。(州選挙2日前、フランクフルトのプレスクラブに顔を出し,仲間のジャーナリストと話したときも、10人中9人まで社民党勝利を確信していた)。

2)保守系の州首相候補が新人なうえ、年齢40歳の若さにしてはダイナミック性に欠け、地味で目立たなかった。その点、社民党の州首相候補は、人間的魅力に欠けている点で保守系候補と大して変わらなかったものの、現役の強みで知名度は抜群だった。

 というわけで、私事にわたって申し訳ないが、これまで一度も棄権したことのない夫,それに息子までが、今回は珍しく「結果がわかりきっている選挙(=保守党敗退)の投票にはいかない」といい、棄権してしまった。ちなみに投票率は66.4%(前回1995年=66.33%)だった。

 ところがどうだ。開票の結果はキリスト教民主同盟50議席43.4%(+4.2%)、社民党46議席39.4%(+1.4%),緑の党8議席7.2%(−4.0%)、自由民主党6議席5.1%(−2.3%)とその予測はみごとに外れ、保守党勝ちで終了したのだ。そればかりか、自由民主党との連立で、政権交代さえ可能になったのである。

 とりわけこの州選挙で、注目を引いたのは緑の党の敗北と後退だった。その彼らのショックとは、20年前、若者のシンボルとしてスタートした党だったはずなのに、今やその若者の緑の党離れが急速に進み、よりにもよってその若者の票が、保守党系に流れてしまったことだ。
 理由は、緑の党の高齢化が進んで保守化が進んでいること。とくに政権の座に就いてからというもの、既成政党と何ら変わりなく、若者を失望させてしまった。

 一方,連立を組んだ社民党に対しても、選挙民は厳しい批判の目を向けている。理由は明確である。主なものを箇条書きにするとこうだ。これまで再三にわたって、レポートしてきたことと重複するが、先ず、

1)選挙中、「中道」をめざすと公約し、特に中小企業主の気を引いて票を獲得しながら,いざふたを開けて見ると、反企業主ともいわれる政策が次々と打ち出され、これらの企業の多くは選挙詐欺に引っかかったと怒っていたこと。

2)弱者救済と称して年金改革の先送りや病欠手当て復活など福祉の維持に着手したものの、その反動で、企業の投資控えや空洞化が進んで失業者が増大し、逆に弱者の首を締めることになってしまった。例えば社民党の票田「金属労組」は、賃金値上げ交渉で暗礁に乗り上げ,一部の地域では、賃上げを要求して時限ストに入るなど、社民党は味方であるはずの労組とも険悪な仲になっている。

3)現シュレーダー政権に確固とした理念がなく、それゆえに、ときとして理想を掲げて独走する緑の党に対しブレーキが利かなくなっていること。挙句の果て,周辺諸国から文句をいわれ、慌てて修正(脱原発での譲歩や核先制不使用宣言の取り消しなど)する始末である。

 決定的だったのは,二重国籍問題であろう。この法案は緑の党が中心となって提出した法案で、ドイツで生まれた外国人や,8年ドイツに在住するだけでニ重国籍を認めるという、悪くするとドイツ人のアイデンティティーを根底からゆるがせかねない法案なのである。

 これに敢然と反対を唱えたのが保守のキリスト教民主同盟だった。さっそく姉妹党キリスト教社会同盟に働きかけてタイアップするや、全国規模で、ニ重国籍反対署名運動を展開することにした。この運動だが「ともすれば外国排斥運動と誤解されかねない。ナチを想起する」として即刻打ちきるよう勧告した議員もいる。だが、慎重に検討した結果、そうした点は問題なしと判断し推し進めていくことにしていた。
 一方、折からヘッセン州では州選挙が始まっていた。相乗りという感じでこの問題を選挙戦で利用するや、ついに保守党勢は42万人に上る署名集めに成功したのである。
 結果はいうまでもない。選挙の勝利者として保守党が正面舞台に躍り出ることになったのである。

 というわけで、今や、シュレーダー政権は重大な局面に立たされている。とりわけ新政権誕生からまだ4か月半しか経っていないこの時期、最初の州選挙でつまずくことになったのだから、その心理的ショックと損失は図りしれない(といわれている)。
 それかあらぬか、早くも社民党内の一部には、このまま緑の党との連立を継続すると,命取りになりかねないと真剣に心配し、連立解消を唱える社民党議員も出てきているということだ。

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