weekly business SAPIO 99/11/25号
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
《シュレーダー・ドイツ首相の発言に見る「21世紀のアジアの代表は中国?」》
54カ国参加の欧州安保協力機構(OSCE)首脳会議がトルコ・イスタンブールで11月18、19の両日に開催された。その後20、21日の両日、欧米主要国の社民・中道左派政権首脳(クリントン米大統領、ブレア英、シュレーダー独、ジョスパン仏、ダレーマ伊の各首相ほか)は、舞台をイタリア・フィレンツエに移して、「21世紀の政治」というテーマでシンポジュームを開いている。
その2時間にわたる中継をテレビで見た。
その中でとりわけ注目を引いたのは、シンポジュームの最終段階で、ドイツ首相・シュレーダーが、突然中国の主要国首脳会議(G8)入りを提案したことである。ではなぜシュレーダー首相はこのような提言を行なったのか。ちょうどこの首脳会談の直前に、中国の世界貿易機構(WTO)加盟が実現したこともあって、欧米諸国にとって21世紀はいよいよ中国をターゲットにしたアジアの世紀に突入し、「今後、重要な政策は中国抜きでは考えられない」と判断したため、ということだ。いいかえれば、欧米諸国にとっての21世紀の手ごわい相手は中国であり、21世紀はロシアにとって代わって中国が台頭する時期に入る、と見ているのだ。その予兆をいち早く先取りしたのが、今回のシュレーダーによる「中国のG8仲間入り」発言だったのである。
事実今回の欧州安保協力機構(OSCE)首脳会談の進行具合をよく観察すると、オモテ向きはいかにもロシアをたてている風に見せかけながら、その実、アメリカを中心とした主要欧米諸国はロシアの足元を見て、身動きできないまでに封じ込めてしまったことが解る。
なぜか。その理由を思いつくままに記述してみると、
1. ロシアはIMFなど欧米諸国の財政支援抜きには成り立たない。
2. その西側の対ロシア支援金の大半を、エリツィン大統領一族を始め政府要人が着服してしまった。しかも西側はその証拠をすべて握っている。
3. コソボ紛争では、これまでロシアが誇ってきた軍事力が、NATOの最新軍事力の前ではひとたまりもないことを思い知らされた。
4. この屈辱を覆すために、モスクワで発生した連続アパート爆発をチェチェン共和国の民のせいにしてテロリストと決めつけ、チェチェン共和国掃討に乗り出したロシアだが、欧米諸国はもとより、ロシアと手を結んだ独立国家共同体や比較的イスラム教徒の多い周辺諸国から反感を買い、不信感を持たれたあげくロシア離れが急速に進んでしまった。
それかあらぬか、今回の欧州安保首脳会談では、この機に乗じて実にうまく立ち回りタイミング良く最大の利益を得た国がある。その国とはトルコである。
理由は、以下の2点。
1. 何よりも、この首脳会議直前にトルコは二度の大地震に見舞われ、世界中から同情を一心に集めることになった。とりわけ、長年キプロス島におけるトルコ侵入で犬猿の仲にあったギリシアがトルコ地震への救助を惜しまず、これをきっかけとして両国の関係が改善に向かい、トルコのEU加盟への道が開き始めたのだ。
そのさ中でのイスタンブールにおける首脳会談開催だった。まずドイツの外相がトルコのEU加盟にゴーサインを出し、そのトルコのEU加盟をアメリカが強力に後押ししている。アメリカがなぜトルコのEU加盟に熱心なのか。理由は、トルコの兵器輸入の大半はアメリカからで、それによりトルコはアメリカに恩を売り、その傍ら、アメリカの威力を借りてEU加盟を達成しようと狙っている。
2. そもそもロシアによるチェチェン紛争の真相とは、カスピ海埋蔵のオイルと天然ガスの利権が絡んだために起った紛争だった。今回もその例に漏れず、ちょうど、欧州安保協力機構首脳会議開催前にこのチェチェン共和国紛争が勃発したことで、それを理由に欧米諸国はロシア・ルートを切り捨て、その代わりに、オイルと天然ガス用パイプラインをカスピ海からアゼルバイジャンのバクー港に陸揚げし、グルジア経由でトルコに引き込み、最終的には欧州方面に輸送し供給するトルコ・ルートに切り替えてしまった。つまり、ロシアがなりふり構わずチェチェンに攻撃をしかけ、利権を獲得しようと躍起になっているおり、トルコはそのスキに欧米諸国に取り入り、まんまとその利権獲得に成功したということになる。
アゼルバイジャンやグルジアも例外でなく、そのトルコに足並みをそろえている。
というわけで、この欧州安保協力機構首脳会議では、最終的には欧州安保憲章とイスタンブール首脳宣言の調印にまでこぎつけ、何とか体裁を整えた。だが、その実一皮剥けば、そのウラではこうしたドロドロとした熾烈な戦いが展開されていたのである。この戦いの勝ち組は、当然ながらアメリカを中心とした欧米主要諸国であり、負け組はロシアだったということだ。
エリツィン大統領が会議の途中、ロシア批判に業を煮やし、ヘッドホンを投げつけて会場を出ていったのは、その余りにもぶざまな負けっぷりに我ながら情けなくなり、いたたまれなくなったからであろう。少なくとも西側ではそう解釈している。
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