weekly business SAPIO 99/1/14号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
◆意外に質素だった「ユーロ」のスタート◆
「Weekly business SAPIO」で2週間のお正月休みを頂き、命の洗濯をした………というのは嘘である。実は年末年始にかけてフランクフルトは、例の「ユーロ」導入でてんやわんや。その歴史的瞬間をこの目で確めようと、私は朝から夕方、ときには深夜まででずっぱりだったのだ。今回はこの町の様子をお伝えしようと思う。
1.1月1日0時、フランクフルトの中心、銀行街の「ユーロ導入まであと〇日」の表示機が“0”(1月1日午前0時)という数字を示したとたん、あちらこちらで、いっせいに色とりどりの花火が打ち上げられ、老若男女がシャンペンの杯を上げて「プロジット、ノイエ・ヤー(新しい年に向けて乾杯)!」
と叫びながら表通りに飛び出し、抱き合って踊り明かした。
2.1月1日の午後1時から3時までを「ユーロ市民祭」とし、欧州中央銀行前の広場を市民に開放した。簡易舞台を作ってバンドで音楽を流すなか、約1キロ四方の広場に白い布を敷いて、その上に「ユーロ」のマークを描き、参加した市民によびかけて人文字を作ることにした。
3. 1月4日の朝8時30分から9時まで、マスコミ関係者を招いての式典が行われた。3人の株式取引関係者(ローバル公定仲立総裁、デ・シルギュイEU委員、フランチーニ株式取引所理事)の簡単な挨拶に続いて、欧州歌(ベートーベンの「歓喜の歌」)が流され、その後1人がボタンを押すと、四方の壁の黒板にユー
ロの表示が次々と出てくるという仕掛けである。
というわけで、この歴史的なフランクフルトのユーロ・スタート行事、私が目撃した限りはお粗末、いや言葉が悪ければ“質素”すぎた。
その理由だが、
1) 欧州中央銀行、ドイツの三大銀行(ドイツ銀行、ドレスデン銀行、コメルツ銀行)をはじめ金融業界は、1月4日からスタートする「ユーロ」の準備に追われ式典どころではなかった。
2)ここ数年フランクフルト市は慢性赤字(金欠病?)に悩まされ、特別予算枠が取れなかった。
何よりも、
3) 元来、ドイツ人気質(=フランクフルトっ子気質)というのは、見栄を張ったり、余計なパフォーマンスが苦手である。その上、慎重かつ用意周到で、名より実を取る方を優先する。
今回もそうで、「確かに銀行決済ではユーロは導入されたかもしれない。しかし、
まだ貨幣やコインは出まわったわけではなく、一般の目に触れていない。実感がわかないのに、そのユーロのために、無駄金を使ってバカ騒ぎをして祝う気になどなれない。しばらく様子を見てみよう」というのである。
これは1月2日から店開きした商店街に足をのばしてみればいっそうはっきりする。
ユーロ参加国(フランスやベルギーなど)の大半の店では、さっそく1月から(いや一部の参加国ではすでに12月初旬から)、店の商品にユーロと自国の2通りの価格を表示し売り出しているというのに、ドイツ(=フランクフルト)では、
ほんの一部のデパートで、しかも入り口付近の2〜3の商品にのみ、マルクの横にまるで付け足しのように小さくユーロ価格を表示しただけである。
もっかその“ドイツっ子”の正月後の専らの関心は、例年クリスマス過ぎから行われているバーゲンセールであり、買い物客が店に入ってまず目を止めるのは、クリスマス前の価格に“×”をつけ、バーゲンセール用に書き直された価格表示であり、ユーロ価格などではないのだ。
だからといって、まったく何もしないというのでは「ユーロ」の町、フランクフルトの名がすたる。というわけで急きょ人を集めて人文字を作って見せて間に合わせた。この辺が、いかにも典型的なフランクフルトっ子らしい。
これなら安上がりで手が凝らない。しかも、マスコミ対策としてもっとも効果的な方法だというのである。ヘリコプター4〜5機を動員して上空からその人文字を撮影し、世界のメディアに配布すれば、それでことはすむからである。
これはフランクフルト株式取引所にもあてはまる。せっかく初のユーロによる歴史的な株式取引が行われるのだから、改装工事などはそれ以前に済ませておけばいいのに、現在この建物はお化粧直しの最中で、その建物は入り口以外がプラスティックで覆われている状態なのである。
さて、その3日後の1月7日午後6時30分、
1999年1月より「ユーロ」の主役となったフランクフルト株式取引所と同じ建物内にある商工会議所の会議場では、「ユーロ」誕生後初めての欧州中央銀行・ドイゼンベルグ総裁とソワイエ副総裁による記者会見が行われた。
時間通りに会場に姿を現したドイゼンベルグ総裁は、上機嫌だった。それもそのはずである。心配されたユーロ決済切り替えでは大した混乱は起こらなかった。しかも、ユーロは対ドル、対円ともに参考レートを上回る初値をつけ、為替相場が堅調だった。
というわけで、「ユーロ」のスタートとしては予想を上回る順調な滑り出しだったのだ。ドイゼンベルグ総裁も、その喜びを素直に口にした。
12月31日にブリュッセルで「ル・モンド」紙記者の質問に対し、「任期途中の退任は考えていない」と答えて、「約束違反だ」という仏政府を憤激させて物議をかもしたのも何のその、集まった記者の一人から再度この質問が出たときには、「ノー・コメント」と答えてさらりとかわしてしまった(その実、「中途退任などとんでもない。何がなんでも8年間、総裁を務めてみせる」という決意を覗かせている)。
つまり、ドイゼンベルグ総裁は、終始余裕たっぷりで、記者会見に臨んだのである。
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発行 小学館
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