weekly business SAPIO 98/9/17号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
◆ユーロ通貨総裁の強気の発言を裏付ける二つの背景◆
しばらくユーロから離れていたので、今回はユーロに戻る。
9月11日午後6時、ドイゼンベルグ欧州中央銀行総裁就任後、第3回目(第1回:6月10日、第2回:7月8日)の記者会見が行なわれた。会場は「欧州中央銀行」のユーロタワー所在地から徒歩10分のアラベラ・グランド・ホテルである。
各国のマスコミ関係者約200人(主としてユーロ通貨統合参加国。日本人記者の姿もちらほら見えた)が招かれたこの記者会見、私も今回初めて出席した。
その最初の印象は、フランクフルトにありながら地方色は一掃されているなということだった。言語が世界語である英語に統一されていただけではない。受付に備えてあるパンフレットも英語だけで、会場にはフランス語とドイツ語、英語の同時通訳も居て3か国語のヘッドフォーンが用意されていたのに、このヘッドフォーンを使用するジャーナリストはほとんどいなかった。
そのドイゼンベルグ総裁(オランダ人)の所信表明は英語で、記者の質疑は英語とドイツ語、応答は英語で行なわれた。この記者会見にはドイゼンベルグ総裁の他にノワイエ副総裁(フランス人)も臨席したが、フランス語で質疑する記者は皆無で、総裁を補助するノワイエ氏の応答も英語だった。
というわけで、このフランクフルトという人口60万人にすぎない町がいかに国際化を心掛けようとしているか、その並々なるぬ努力がじかに感じられた。
さて、当のドイゼンベルグ総裁だが、白髪の大男で、眼光が鋭い。この大男が壇上に上がり、記者たち一同をなめ回すようににらみつけ、記者会見に臨むというわけだ。
もっぱら記者たちの関心はロシアやアジア、日本の財政金融危機、それにひきずられて起こった「世界同時株安」とユーロ通貨との関連、その影響にあったが、ドイゼンベルグ総裁の回答は実に簡単明瞭だった。
開口一番、「これらの悪材料が、世界経済に影響を与え、多少ユーロ促進にマイナスになっているのは事実だが、だからといって、ユーロにとり決定的な悲観材料になると判断するのは、間違いである。むしろこれをきっかけに(マスコミなどが)必要以上に危機感を煽り、ユーロの足を引っ張り、パニック状態を引き起こす方が危険だ。皆冷静沈着に行動すべきである」との警告を発した。
その理由として、
1)アジアに始まり、さらにロシアをも混乱に陥れたこの財政危機に関し、欧州中央銀行では事前に的確な情報を把握していた。そのためすでにこの危機を予測して、例えば、貿易一つにしても、極力、危機区域との交易を回避するよう努め、ユーロ通貨参加国およびEU域内に限定してきた。
2)その後、さらに、最近の危機状況(ドル下落を含め、ルーブルや円に対する不信感)を緻密に分析、検討を重ねた結果、これら一連の危機が、逆に一般市民のユーロ通貨に対する、より一層の信頼感と期待感となって、彼らの預金熱や消費熱に心理的な効果を呼び、むしろユーロの将来にとり有利な条件を引き出すとの結論に達した。
というのである。
その証拠に、この危機の悪影響で一時的な経済後退が見られるにも拘わらず、
イ)ユーロ通貨圏の経済成長に回復が見られ、ロ)域内需要が上向きつつあること。
しかも、これに触発され、ハ)域内の実質賃金の向上や雇用の改善に寄与しつつあること、従って ニ)インフレ策の安定につながって行く。
とドイゼンベルグ総裁は指摘している。
こうしたドイゼンベルグ総裁のユーロ通貨に対する自信(時には強引過ぎるとの
声もある)の背景だが、次の2点が挙げられている。
一つには、このユーロ統一通貨構想が一朝一夕ではなく、長い年月をかけて準備されてきたことがあげられよう。
欧州は20世紀に入って2つの世界大戦を経験し、第2次世界大戦後に至っては、その欧州がつい最近1989年「ベルリンの壁」崩壊まで東西に分断されていた。その苦い教訓に則って、すでに1951年、歴史的に紛争の的だった石炭と鉄鋼に関し共同管理の構想が生まれ、「欧州石炭鉄鋼共同体」が設立された。この直後からユーロ通貨の統合は欧州統合最終目標として視野に入れられ、着々と準備が進められてきたのだ。
二つには、「欧州中央銀行」発足当時の初代総裁選出の混乱が挙げられる。この選出では、フランス側が急遽対立候補をたてたことで、ドイゼンベルグ総裁選出に困難を来した。最終的にはドイゼンベルグ総裁で落着したものの、その条件は任期8年を4年に短縮することにある。いいかえれば、ドイゼンベルグ総裁にとって最初の4年が勝負であり、その成果に全てがかかっている。
そのため、ドイゼンベルグ総裁と彼を支えるユーロテクノラートには、失敗は許さぬ意気込みと気迫が感じられるのだ。
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発行 小学館
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