weekly business SAPIO 98/8/27号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆アメリカが本当にミサイルを撃ち込みたいのはロシアだ!◆


 ユーロ通貨は、来年1月1日より通貨統合参加国内で銀行預金や公的機関の債券などがユーロ建てで表示され、ユーロが現金として市場に流れるのは2002年以降で、そのための紙幣の印刷について準備に入っていることは既にレポートした。

 一方コインだが、このコインの鋳造も今秋から開始され、ドイツ国内では120億個鋳造される予定である。これについては8月7日、ミュンヘン造幣局において、ワイゲル蔵相立ち会いのもと、ドイツ版ユーロ硬貨(表は金額表示と欧州地図、裏は各国のシンボルがデザインとして描かれ、ドイツは鷲、樫の葉、ブラ ンデンブルグの門が図柄として使用される)の試作鋳造が始まることが公表された。

 なお、ユーロ硬貨の国内における鋳造地はミュンヘン、ベルリン、ハンブルグ、カールスルーヘ、シュトッツガルトの都市にある5カ所の造幣局で行われる。と、 ここまではユーロ通貨情報に関する前向きの明るいニュースである。

 ところが、この先から、もしかするとユーロの通貨の将来に暗い影を落とし、ユーロの足を引っ張るのではないかとの風評が、先週末、世界の市場を駆け巡った話から始めよう。

 理由は、先週木曜日ロシアのルーブル大幅切り下げが発表され、先週末21日の欧米諸国の株式市場が軒並み全面安となったこと(フランクフルト株式市場ではドイツ株価指数の終値5163.51と昨年10月以来の下げ幅を記録した)。とくにユーロの主導権を握っているドイツのロシア向け民間債権残高は304億5200万ドル(対ロシア向け西側の民間債権総額は720億ドル)と全体の約40%相当を占めている。

 もっとも、この辺の事情については、早速コメルツ銀行経済担当部長ウーリッヒ・ラム氏が8月23日付「フランクフルター・アルゲマイネ」紙で、ドイツの名誉にかけてもその心配はないと、次のようなコメントを発表している。

1)ドイツのロシア向け民間債権額は、海外債権総額中1.8%を占めるに過ぎない。そのうちの87%は長期債権である。

2)もしロシア側による支払い不能が生じた場合、ドイツ政府は民間銀行肩代わり=保証(別名“ヘルメス債権保証”)を義務付けている。

3)ドイツのロシアにおける輸出入貿易の占める割合は、全体の2%に過ぎない。

4)ロシアの主要輸出品の70%は原料で、ドイツはうち30%を占めているものの、その原料は原油である。これだとリスクは少ない。

 さて、次に、このロシア発財政危機とほぼ同時期に発生した今回のアメリカによる「テロ関連施設(アフガンとスーダン)攻撃報復事件」について、この2つの事件はたまたま偶然に起こったのではなく、むしろ微妙な形で実に深く係わりあっていること。その関連性についても触れておきたい。

というのは、よりにもよって、米軍が両国にミサイルを打ち込んだ8月20日は、ちょうど30年前の1968年8月20日、旧ソ連軍が、自由を求めて立ち上がったチェコ住民を、力で鎮圧した「プラハの春」の記念日に当たる。そのためこの「テロ関連施設攻撃報復事件」は、ロシアのエリツィン大統領が「アメリカから事前通告がなかった」として憤慨したのでも明らかなように、西側諸国、とりわけ米英独仏による「ロシアたたき=牽制策」が見え隠れしているからだ。

 ではなぜそのような憶測が、西側諸国の水面下でささやかれているのか。
1)先のIMF支援と同様、ロシアは西側からただ莫大な支援を取り付けるだけ
  で、真剣に改革する自助努力が一向に見られないこと。
2)イスラム原理主義運動のグローバル化が進み、イランやアルジェリアのみな
  らず、アフガン、スーダン、パキスタンにまで拡大しつつあるなか、その過
  激なテロ行為やテロリスト養成の背後で、武器密輸に関わっているマフィア
  化した旧ソ連軍の陰がつきまとうこと。
  これは西側諸国をてこずらせてきた先のボスニア紛争、さらに現在発生して
  いるコソボ・アルバニア紛争も同様である。
3)今回、テロの巣窟として攻撃の標的としたとくにアフガンにはカスピ海から
  アフガン、さらにパキスタンを抜ける天然ガスやオイルのパイプラインが敷
  かれ、これらは、今もアメリカと敵対しているイランと中央アジアやコーカ
  サスに通じるロシアの管理下にある。

 というわけで、今回のこのアメリカの軍事行動だが、テロ事情に精通している
欧米諸国のエキスパートの間では、緻密に計算された軍事行動で、むしろ遅すぎ
た感があるという意見が大勢を占めている。そこには日本のマスコミが伝えてい
るような“意外性”とか“性急さ”は全くみられない。ましてやクリントン大統
領の不倫疑惑そらし(それ自体間違ってはいないが)一本にその理由を求める短
絡性もない。

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