weekly business SAPIO 98/8/20号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆7年ぶりの1ドル=147円は欧米人のバカンスのいたずら◆


 一週間の夏休みをいただいたあと、今回は少しユーロに関する情報から離れて、ヨーロッパにおける日本の小渕新内閣評価、そしてその連鎖反応で起きたと見られる先週の株価下落事情について報告しようと思う。

 まず小渕新内閣だが、早速私はこの新内閣について、知人のドイツの政界・官界・財界、マスコミ関係者に当たってその感想を尋ねてみた。結果は残念ながら不評だった。理由を箇条書きにしてみると、こうだ。

1)せっかく参院選で国民は自民党惨敗を突き付け「自民党再起」を促したというのに、党内では反省の色は見られず、またしても、従来の派閥型たらい回し政治に明け暮れた。その挙げ句、世界第二経済大国のリーダーのイメージとはおよそかけ離れた人物を首相に選出してしまったことで、日本に政治家の危機意識欠如とともに日本に改革の意志なしとの印象を植え付けた。

2)膨大な不良債権を抱え込んで深刻な金融危機に直面しているこの時期、いかに金融財政に明るく、英語会話に優れているとはいえ、78歳の宮沢元首相を蔵相に担ぎだした。これは先の日銀総裁で高齢の速水優氏を選出したのと重ね合わせ、人材(=リーダー)不足を露呈してしまった。

3)近ごろの欧米諸国では、発達したメディアを意識して、それに見合った政治家を 「世界の顔」として登場させ、点を稼ごうと工夫する。その「世界の顔」とは、「顔が切れる」「押しが利く」「弁が立つ」という必要条件のほかに「背が高い」「気品がある」という十分条件を満たすことだが、日本はその点でもサミット参加G-7(-8)国中、もっとも立ち遅れていることが明白になった。

 こうした日本に対するマイナス評価が祟ったのか、8月2週目に入った(ちょう ど日本では臨時国会会期中)11日、東証は8年ぶりで円安 147円をつけ、株も7日間続けて下落してしまった。しかも、2日おいて13日には、ロシア市場での通貨・債券・株式トリプル安が発生している。

 もっともロシアに関していえば、つい7月13日すでに対ロシア金融支援として、コール首相の仲介でクリントン大統領など主要先進国首脳の了解をとって 226億ドル支援(内訳は国際通貨基金 151億ドル、世界銀行60億ドル、日本15億ドル)がまとまったばかりで、わずか1カ月足らずで早くも、第二波の危機に見舞われてしまった。

 その最大の原因だが、ドイツの銀行筋は、「ロシアの企業家が自国のロシア経済を信用していないために起こす“資本逃避”にある」と分析している。ロシアにはいくら資本を投下してもロシア経済復興投資につながらず逆に西側への流出現象が起きているというのである。今年だけでもその金額はすでに 300億ドルに達しており、実はその逃避額分がロシア経済の足を引っ張っている。

 ドイツはことロシア支援に関しては「鉄のカーテン」崩壊後、苦い経験がある。対ロシアに 800億ドルもの資金援助を行ったものの、その支援がロシア経済復興に全く生かされなかった。その原因も、“資本逃避”にあったのは知る人ぞ知る。日本と事情こそ違え、実はロシアも、西側から緊急財政改革を迫られているのだ。

 いずれにしろ、その日本とロシア発の株価下落にひきずられる形で、先週、ニューヨークやロンドン、フランクフルトで、いっせいに平均株価が下落した。

 ちなみにフランクフルト市場では、7月中旬平均株価は6200近く値上がりし戦後最高値をつけたものの、以後ジリジリ下げ続け、11日は5268.56(前日5476.25)まで下げた。これは7月中旬の最高値と比べると約1000マルクの下げ幅になる。

 もっともこのような場合、本来ならパニックになるところなのに、そうならずに冷静に受け止めるのがドイツの投資家気質である。

 これには二つ理由がある。

 一つはすでに平均株価が5000の大台をのせたころから市場では過熱気味との観測が大勢を占め、そのため、一般投資家には買い控えるようにとの指示が既に入っていた。

 二つは、欧米では8月始めから、休暇の時期に入り、政・官・財はもちろんのこと、一般市民も3〜4週間避暑地に出掛けることから、開店休業といってよく、ちょうどその夏の休暇を狙っての株価下落だけに、株に対する関心は稀薄である。

 こんなところは、欧米人特有の心憎い株価操作と受け取れなくもない。となると、何のことはない。見方を代えれば、日本とロシアを中心とした先週の株価暴落騒ぎは、こうした欧米の株価操作にうまくはめられ、そのあげく引っ掻き回された(原因は両国自身にあるものの)といっていいのかもしれない。

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