weekly business SAPIO 98/12/3号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆ドイツの一流紙の見解は 「日本と中国の歴史問題は既に解決済み」◆


あと1ヶ月に迫った「ユーロ」通貨統合、このところ欧州中央銀行は最後の追いこみにかかっており、さすがに仕事の虫といわれている“ユーロテクノクラート”も週100時間を悠に超えるハードな執務に悲鳴の声を挙げている。と、これはその一人から聞いた話である。

それはさておき、今回はそのユーロから一歩離れて、江沢民国家主席が11月25日から30日まで,国賓として日本を公式訪問した一件について、いったい欧州ではどう捉えたか、ドイツにおけるマスコミの反応を中心に報告してみたくなった。

なぜかというと、例えば、日本経済新聞(11月28日付朝刊)では、この訪問に関するの海外の論調について、アジア各国は日中共同宣言に両国が署名しなかった点を指摘したとして、「両国の溝強調,署名問題注目」という見出しを掲げていること。
さらに、欧米諸国の反応についても、米国と英国の主要新聞の論調を取り上げ、例えば、「英ファイナンシャル・タイムズは首脳会談を日本の戦争責任に関する社説の中で取り上げた。日本政府が謝罪の文書化を拒否したことを,日本政府に対する英国人元捕虜らの損害賠償請求を東京地裁が棄却したことと合わせて批判した」という記事を紹介し「欧米も厳しい見方」としていたので、“ちょっと待てよ, 欧米といっても, ドイツでは別の見方をしているのに。この事実は読者に伝えておく必要がある”と思ったからだ。

では、そのドイツのマスコミでは、この問題に関して一体どのように取り扱ったのだろうか。
結論から先にいうと、ここ1週間のドイツ紙のいくつかに目を通してみると、大方は日本に理解を示してくれていたのだ。

例えば,この問題を第一面で取り扱ったドイツ一流紙フランクフルター・アルゲマイネ紙(27日付)は,見出しこそ「日本,謝罪の文書化を拒否/中国国家主席江沢民の来日で意見の食い違い生じ、文書は署名されず」だったが、記事の内容は「中国との過去の歴史認識問題に関しては、すでに 1972年から78年に日中両国間で合意し解決済みなうえ、1995年、当時村山富市首相が、終戦50周年記念に際し、過去の過ちを心から謝罪しており、そのため,今回、日本政府としては口頭で“反省とおわび”をすることに留めた」と報じている。

それだけではない。その後の各新聞の報道ぶりも、「江主席微笑外交」などと中国を持ち上げている日本のマスコミ報道とは対照的に、日本のマスコミが報道しなか った、例えば早稲田大学での江国家主席講演における学生による中国の核兵器政策や宗教弾圧政策反対の声,  さらには,キャンパス内や会場前での右翼による〔日本は中国に謝罪するいわれはない。中国こそ日本に謝るべきだ〕という声、中国の人権問題や拷問廃止のプラカードを掲げた学生たちについても、きちんとニュースとして流し、日本国民は日本のマスコミの報じているように、中国におもねた国民ばかりではないことを印象づけようとしている。

と同時に、「デイ・ウエルト」紙(11月28日付)では、「このところ中国では国営企業の破綻が相次ぎ、江沢民国家主席を始め中国の指導者たちは、深刻な失業問題に直面して頭を抱え込んでいる。ちなみに中国の公的な失業統計によると1997年は失業率3.1%で、その数は570万人といわれている。しかしその実情では失業者1100万〜1300万人といわれており、その数は1998年は1300万〜1500万人、1999年は1800万人、2000年には4800万〜5700万人に上ることが予想されている。これに地方農家の出稼ぎ労働者4000万人が加わる。このような大量失業者を抱える中国では、近年犯罪や貧困、それに離婚家庭が急増し、特に都市周辺で社会不満が充満しつつある」と伝えている。

こうしたドイツの報道姿勢だが、
1. ドイツも日本と同様、第2次世界大戦で敗戦国となり,戦後,幾度も被害を与えた国にひざまずき謝罪し、莫大な賠償や支援を行ってきた。にも関わらず、その割には感謝されず、逆にその低姿勢をいいことにさらなる要求をつきつけられるという。いいかげん、この位で勘弁してほしいという感情があること。
と同時に、
2.  ナチの教訓から、マスコミはできる限り、事実を公平かつ正確に伝えることを鉄則にしている。
3.  ドイツでは日本の大衆紙「夕刊フジ」に類する新聞を除き、全国紙でも部数はせいぜい40万部ほどで、少ない部数の中で横並びは許されず、それぞれ主義主張の明確な特徴ある記事の掲載が要求される。
からで, その辺が日本のマスコミと違うというわけだ。

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発行 小学館
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