weekly business SAPIO 98/12/24号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
◆砂漠のキツネにつままれた日本の新聞◆
12月16日深夜に開始された米国と英国によるイラク空爆“砂漠のキツネ作戦“が終了したのはイスラム教によるラマダンが始まった直後だった。さっそく21日付朝日新聞は「キツネにつままれた作戦、いったい何が変わったのか」という見出しでヨーロッパ総局長・百瀬和元氏の論文を掲載している。全文を紹介するわけにはいかないので、とくに疑問に感じた部分を抜き出してみることにする。
1. 「砂漠のキツネ」という名前が象徴するように,米英両軍のイラク懲罰はわけのわからない結果に終わった。
2.作戦は@国連査察が阻止されたために検証できない「危険施設」を破壊しAイラク政府に国際社会の決意を示して,国連査察の受け入れなどに追いこむ
― ものだった。ところが、ふたを開けてみると拒否にあった国連査察に代わって大量破壊兵器開発を防ごうというものだけではなくなった。「イラク現体制の圧制を担う共和国防衛隊」を主な攻撃目標とするなど、いつのまにかフセイン政権に対する揺さぶりの作戦の様相を帯びてきた。
3.今回のイラク危機で、国際社会はどう対応したのか。唯一の超大国(米国)とその無二の同盟国(英国)が自分たちの論理で、世界最強の武力を行使することにまず抵抗や憤りを覚えた。これが現実ではなかったか。
というのだが、この記事を読んで“この人はヨーロッパにおける世界戦略,その延長線上にある中東戦略をまったく理解していない”という感想を持った。また、NHKのワシントン発のイラク空爆報道におけるコメントが“クリントン大統領の不倫疑惑もみ消し”に重点をおいて行なわれたことでもそう思った。
では、なぜかくも日本のイラク空爆報道はピントが外れていたのか。その前に英国のブレアー首相自ら寄稿した19日付ドイツの一流紙フランクフルター・アルゲマイネ紙の寄稿文に目を通すまでもなく、西側によるこの4日にわたるイラク攻撃報道(テレビ,ラジオ,新聞)からその事実関係を記述すると、
まず
1.今回の「砂漠のキツネ」作戦だが、西側にとっては堪忍袋の緒が切れた行動であり、本来なら11月15日に開始すべき攻撃だったのだが、ギリギリになってサダム・フセイン大統領が無条件国連査察に応じると回答を寄越し、攻撃中止に至った経過がある。つまり今回の米英両国の行動だが、かなり長期間にわたって慎重に検討した上で開始したことが窺われる。
2.ドイツ側の査察官(ドイツは湾岸戦争後の91年6月17日より30人の査察官をイラクに派遣)は、査察には常にイラク側の監査官が送り込まれ、監視を妨害したと証言している。そして、11月15日以後もイラクは、無条件国連査察を容認したにも関わらず、査察に当ってかなり妨害した形跡が見られたと、イラク国連査察で指揮にあたったオーストラリア人リチャード・バトラーがその旨を一部始終報告している。
3.その最高司令官であるサダム・フセイン大統領の野望は大アラブ・イスラム世界の実現であり、その目的達成のために大量破壊兵器を製造する彼は、西側にとって危険人物である。何よりもその当人は野望実現のために,水面下で西側弱体化を狙ったテロ攻撃の陰の仕掛け人として暗躍している。今回の攻撃はその彼の指導能力と戦闘力の弱体化を図ることにあった。
というもので、実施に当っては,攻撃直前の16日にはクリントン大統領とブレアー首相は,フランス,ドイツさらにその他の主だった世界のリーダー(=NATO関係者)の了解を取りつけていた。
つまり,米英両国は、一見奇襲攻撃とも取れるこのイラク攻撃に当って,彼らなりの理由づけをし、事前に手抜かりなくその手順を踏んでいたのである。
「知らぬは日本ばかりなり」というこのイラク攻撃報道、というよりもむしろ,フセイン寄りとも取れる報道だが、なぜ今回このような報道が日本で行なわれたのか。理由は、今回の米英両国によるイラク攻撃が,国連骨抜き(ここでは国連のアナン事務総長も常任理事国であるロシアも中国も無視されてしまった)にあったのだが、ときに国連を過大評価しがちな日本の報道陣にはそれが見抜けなかったのだろう。
日本のように国連重視に則っている国としては,こうした米英の独断的な行動は理解しがたいだろう。だが、すでに米国をはじめとする西側諸国では,国連離れがここ数年急速に進んでいるのだ。手始めは冷戦終焉だが、その後のユーゴ紛争、とくにボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で明石氏が紛争調停役を買い、交渉が難航し迷路に入ったころからいっそう拍車が掛けられてしまった。最初にこの国連の無為無策に嫌気がさし,見放しはじめたのは米国で、このところ分担金滞納が目立っている。
とくに今回目に見える形で突出した露骨な米英両国による国連無視姿勢の背景だが、ひとつは、今年8月のルーブル切り下げをきっかけとしてどん底まで落ちていったロシアの凋落だ。この国の疲弊ぶりを目の当たりにして、国連における拒否権発動という常任理事国の特権を持つ資格はないと西欧諸国は思っている。
ましてやそのロシアは水面下で、外貨稼ぎのためとはいえ、イラクをはじめアラブ諸国と繋がって密かに武器やそのノウハウを売りつけている。これは中国も同様である。そのロシアと中国に対し、これ以上彼らを支援するならば国連における常任理事国の特権を剥いで見せると凄んでみせたのだ。
二つめは、アラブ諸国が本心で、米英をはじめ西欧諸国を憎みながらも彼らの政治力,経済力,とりわけ軍事力と情報力には歯が立たないと思っている。そこで、すきあらばその弱みにつけ入ろうとしていることだ。欧米諸国に仕掛けるテロ行為はその手段の一つである。今回の米英両国によるイラク攻撃とはまさにその先手を打って、欧米諸国を敵と見ているサダム・フセインをはじめアラブ諸国の首長にその威力を見せつけることにあった。
そんなカラクリがあるとは露知らす、キツネにつままれた日本の報道陣,とりわけ朝日新聞は、お気の毒というしかない。
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発行 小学館
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