weekly business SAPIO 98/12/10号
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
◆「ユーロ」参加国一斉金利下げに見る欧州の結束の固さ◆
いよいよカウント・ダウンに入った欧州通貨統合。その第6回欧州中央銀行の記者会見が12月1日(火)午後6時30分、「ホテル・フランクフルター・ホーフ」にて行なわれることになっていた。ところがいつもはまるで時計の針のように時間通りに行われる記者会見なのに、この日に限って20分ほど遅れた。記者会見の主役ドイゼンベルグ総裁とノワイエ副総裁が遅刻したからである。その記者会見も簡単だった。
要旨は
1.1999年の経済見通しについて、3%近い経済成長が見こまれる98年と異なり、減速傾向にあり、欧州通貨統合参加国の実質国内総生産の伸び率は2.5%(前年比)にとどまる。
2.来年99年の政策目標とする通貨供給量M3(現金,要求払い預金,定期並びに貯蓄性預金の一部について、その伸び率を4.5%に設定すること
さらに
3.99年1月より適用する欧州通貨統合参加国の統一政策金利は12月22日に開催される理事会で決定し、即日公開するというもので、そのあとほんの数人の記者の質問を受けただけで、2人はそそくさと退場してしまった。
「おかしいなあ、いつもとは様子が少し違う」と思ったらそれもそのはずで、この日一日中、通貨統合参加11カ国の中央銀行総裁11人と欧州中央銀行理事6人(顔を揃えたのは11月30日の夕方)が、具体的な「ユーロ」推進の詰めの協議と共に金利についても討議し、各国とも値下げに踏み切る事で一致させていたのだ。問題は下げ幅でありその公表の時期とタイミングである。
下げ幅については、イタリアの4%を3.5%に、アイルランドの4.5%を4%にすることを除き、他の参加国は全て3%で足並みを揃えることにした。公表の時期については12月22日ではなく、「ユーロ」実施の1999年1月4日のちょうど1ヶ月前の12月3日としてたいたのだ。
かくして、すでに日本でもテレビや新聞で周知の通り12月3日(木)、通貨統合参加国による一斉金利下げの発表となったのである。欧州中央銀行の統一政策金利の道を前倒しにして開いたばかりではない。こうすることで欧州中央銀行に対する政治的圧力を巧みにかわすことにしたのだ。少なくとも世間に対し、政治的圧力には断じて組みしないとの印象を植え付けることができた。
この欧州通貨統合参加国の見事な足並みと結束の固さ!
12月1日の記者会見で2人が遅刻したのはその会議が長引いたためであり、いつもより記者会見を早く切り上げたのは、3日に公表される参加国一斉金利引下げ決定が、何かの拍子で事前に漏れるのを避けたかったからだといわれている。
いずれにしろ、こうした通貨統合参加国の一斉行動が世界をして、より「ユーロ」の信用を高めたことは確かである。
されはさておき、この金融のグローバル化というべき「ユーロ」促進に触発されてか、このところドイツでは企業のグローバル化が破竹の勢いで進んでいる。特に最近話題をさらっているのは,ドイツにおける3大化学会社の一つといわれてきた「ヘキスト社」が、フランスの「ローヌ・プーラン社」の生命化学部門と合併した。企業ごと隣国のフランスに移って、名前も新たに「アバンティ」とし、将来は「欧州株式会社」としてスタートすることになったというニュースである。
この他にも巨象の結婚と騒がれたメルセデスとクライスラーの吸収合併、ドイツ銀行によるバンカーストラスト買収など,数え上げればきりがない。まるで,ドイツはグローバル化一色に染め上げられた観さえある。
そんななか、フランクフルトの見本市会場(ドイツの見本市では最大規模)で、12月3日から5日の3日間、会場の一部8号館と9号館(見本市会場の建物は全部で10号館ある)を使って、起業家や中小企業を中心とする「ユーロ鋳型」見本市が開催された。名称は「ユーロ鋳型」だが、その実、出展社の出展物は工作機械
、デザイン 、新規開発など多岐にわたる。今年は開催5年目に入るが、出展社の数も年々増加傾向にあり好調ということだった。
ちなみに1994年の出展社数は280社にすぎなかったが、今年は1180社に上っている。出展社の比率はドイツが69%。海外31%の内訳は、イタリア28%、ポルトガル10%、フランス8%、スイス、スペイン各7%、オーストリア、オランダ各6%、韓国、英国、台湾各5%、ハンガリー3%、ベルギー2%、その他8%となっている。日本からは今年初めて1社,合成木材製造会社(日本の市場占有率40%)が出展していた。
主催者側の話によると、「ドイツは伝統的に手工業の盛んな国として知られてきた。それだけに、この見本市に出展している会社は、グローバル化の進む昨今、その荒波をかいくぐり、必死に生き残りを賭けようといる会社が大半だ」という。ついでにその中小企業の出展社の声にも耳を傾けたところ、「ドイツでは中小企業が雇用市場の65%を支え, 税金の60%を支払っている。その中・小企業を見殺しにするような政策は断じて許してはならない」と強調していた。
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発行 小学館
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