weekly business SAPIO 98/10/29号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆自国が不況でも移住すればOK ドイツの若者に広がるユーロへの期待◆


 最近ドイツの有力な経済紙“ハンデルスブラット”が行なったドイツ人ユーロ意識アンケートによると、ユーロ通貨導入に対して98年1月には反対58%、賛成30%だったのが、10月現在、賛成反対ともに43%と、徐々に反対が減少し、逆に賛成者が増え続けていることが判明した。

 これまで「ドイツの犠牲でユーロは成立する」と愚痴り、ユーロ導入を頑なに拒んできたドイツ人が、今、なぜ急にこのような様変わりをし始めたのか、その理由を記述するとこうだ。

1)ドイツの一般市民もようやくドイツにユーロの本拠地が設置されるメリットを意識しはじめた。
これについては、90年から欧州の企業トップ500人を対象にイギリスの不動産コンサルタント「ヒーリー&ベーカー」が行っているアンケート調査の結果を見るとはっきりする。
 まず、「ユーロが導入される来年以降、その都市が最も魅力的になると思うか」については、97年ロンドン51%、フランクフルト29%とした回答を集めたものだが、98年にはフランクフルト44%、ロンドン42%と逆転してしまった。
また「最も魅力的な生産立地はどこか」では、ドイツがトップの26%で、続いてスペイン20%、イギリス14%となっている。
さらに「政治都市として重要な都市を挙げるとすればどこか」について、ブリュッセル65%、次はベルリン20%、さらにパリ5%と答えている。
つまりユーロ導入をきっかけとして、ドイツの経済と政治、その国と都市に対する人気と評価はかくも高まってきているのだ。

2)8月のルーブル切り下げによるロシア金融危機では、日本を中心とするアジアや中南米、さらにはEU参加を拒否したノルウエーまでもその影響をもろに受け、通貨暴落が起こった。しかしドイツ人は、ユーロ圏の通貨だけは比較的安定していたのを目撃し、あらためてユーロの威力を思い知った。

3)雇用関係に関し、とりわけ若者の間で、たとえドイツ一国が不況に陥っても、国境が取り外され移動や移住が容易になったEU諸国では、より簡単に職にありつけるという期待感があり、ユーロ導入はさらにその流動化に拍車を掛けると見て、楽観的なムードが広がっている。
 これは、ドイツで保守コールから革新シュレーダーに政権が移り、企業利益よりむしろ労働者待遇に重点をおき、ドイツ経済後退を憂慮するドイツ人がいるなか、その一方でいずれ失業問題はEUサイドで解決されることだろうという期待感を持つドイツ人が多くなっていることもその理由とされている。

 ちなみに、先述したハンデルスブラット紙のアンケートでは新政権が最も力を入れるはずの失業問題解消に関し、その回答を見ると“新政権は旧政権より効果を挙げる”と回答しているドイツ人は37%のみで、むしろ“新政権によって失業者が増大する”と答えた者が13%、“まったく変わらない”と答えた者は44%に上っている。

こうしたなかで、ユーロ通貨導入まであと2か月と迫るなか、欧州中央銀行では各種流通団体や金融関係組織とタイアップして、一般市民のユーロ通貨対応策を着々と進めている。

 主な対応策は次の2点である。
1)1999年1月1日より、全流通・サービス業界では、初めのうちはその価格表示をマルクとユーロによる2本建てとし、徐々にユーロに切り替え、2001年夏ごろにはユーロ価格一本に絞り込むこと。

2)ユーロの貨幣とコインの一般流通は2002年1月1日より開始されるが、銀行の窓口業務では2002年2月28日までマルクも受け付ける。その間一般商店でのマルク使用は最高額20マルクまでとすること。さらに自動販売機についてはユーロ用切り替え終了まではマルク用自動販売機を許可するものの、できるだけ早期にユーロ用に切り替えることを前提とすること。

 というわけで、ユーロ導入はいよいよ最終段階に入ってきた。後戻りなど許されないのである。

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発行 小学館
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