weekly business SAPIO 2000/9/7号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《日本では知られていない北朝鮮とコンゴの怪しい関係》


 どうやら、ロシアにとって8月は鬼門であるらしい。
 91年8月には旧ソ連が崩壊した。98年8月には金融危機に見舞われた。そして、今年8月は原潜事故に続いて、テレビ塔火災事故の発生である。
 これらの事故をきっかけとして、ドイツのテレビでは、シベリアにおける山火事、 パイプ故障による石油漏れと垂れ流し、頻繁に発生する原発事故での放射能汚染など を次々と放映、紹介し、ロシアの危機管理がいかに弛緩しているかを指摘している。

 プーチン大統領の訪日は3日〜5日だったが、プーチンにとって今回程あての外れた外交はなかっただろう。
 というのも、本来ならば、中国や北朝鮮の対日外交の様に脅しを掛けるとはいわな いまでも、北方領土問題を棚上げにしてカネを巻き上げたうえ、一芝居打ってプーチン特有の「パフォーマンス=ハッタリ外交」で肩すかしを食らわせたかったはずが、先の事故直後ということで、日本側もロシアの足元を見て、そう簡単には譲歩しなかったからだ。

 もっとも、プーチンの外交に関しては、ヨーロッパ、特に冷戦中、その手練手管に いいかげん振りまわされてきたドイツは既にお見通しらしく、今回の日露外交にしても実にクールに観察し、「要するに、プーチン外交はとどのつまり悪あがきによる焦 り外交」としてしか見ていない。

 北朝鮮外交にしてもしかり。ここドイツでは、南北朝鮮の接近をきっかけとして、両国の交流が深まるのは結構だが、どうも日本は、カネとモノの運び屋としていいよ うに利用されているという風にしか見ていない。

 その北朝鮮は韓国から非転向囚63人を引き取ったが、その中には、日本にとって 今後最大の北朝鮮外交カードとして使うことのできるはずだった日本人拉致について の重要証言者まで含まれている。それなのに、日本政府はその重要生き証人をみすみす取り逃がしてしまった。韓国も韓国だが、日本も、なぜ強引にこの引渡しを阻止で きなかったのだろうか。これではまさに北朝鮮の思うツボとしかいいようがない。

 しかも、こうした日本のとんまな対応をあざ笑うかのように、北朝鮮は更なる蛮行に及ぼうとしている。英紙インデペンデントが報じたニュースとして、8月26日付「読売オンライン」では、以下の2点を指摘している。

1. 北朝鮮政府は、アフリカ中部のコンゴ民主共和国の政府軍教育担当として人民 軍将兵169人を派遣。コンゴの外交筋も「北朝鮮の将兵が最近到着した」と受け入れの事実を認めたこと。

2. この北朝鮮人民軍の派遣は、コンゴ民主共和国のカビラ大統領の要請によるも ので、将兵たちはコンゴ政府軍の軍事教練や軍紀確立など教育全般を担当しながら、同時にコンゴ領内に眠るウラン資源を北朝鮮の核開発に活用する可能性を探る任務も与えられていること。

 日本人にとっては、おそらくこのような北朝鮮の行動は、予想外で、理解できない のではないだろうか。

 そこで、今回は、日本では余り知られていない北朝鮮とコンゴのカビラ大統領との関係、更に、なぜ今、北朝鮮の将兵派遣要請なのか、そのコンゴの昨今の情勢について、レポートしておこうと思う。

 まず北朝鮮とカビラの関係だが、カビラの個人的な事情よりも先に知っておかなけ ればならないことは、1960年代まで多くの国々が欧州資本主義国家の植民地であったアフリカでは、その反動から、独立後の指導者層達の多くが共産主義、ソ連側に 親近感を抱いていたという点だ。1970年代にはソ連、キューバなど多くの共産主義諸国がアフリカに進出し、軍事面を中心に多大な支援を行なっていた。従って、多くのアフリカ諸国と旧ソ連を始めとする共産諸国との結び付きは深く、北朝鮮とてそ の例外ではない。
 更に、カビラは、若いころチェ・ゲバラに心酔し、革命家を目指して旧東ドイツに 留学している。その留学生活中、彼は、旧ソ連との人脈作りに奔走し、同時にプーチ ン大統領に通じる「手段を選ばぬソ連流権力掌握術」のノウハウを学んでいる。この 際に北朝鮮からのスパイなどとも交流を持っていた可能性は強い。

 その成果が、1997年の、長年コンゴで独裁体制を布いてきたモブツ大統領追い落としであり、その後に射止めた大統領という権力の座なのである。

 大統領に収まったカビラの豹変は見事なものだった。コンゴの民主化を標榜して、 西側(とくにアメリカ)の目をくらまし、そのスキを狙ってコンゴの東部に拠点をおき、約20年間にわたりダイヤモンド密輸に手を染め巨富を貪ってきた。その延長線上で、カビラはコンゴのダイヤモンド鉱山の利権独占化にうつつを抜かし始めたのである。

 いち早くこのカビラの野心を知った医師エミリエ・イルンガは「コンゴ民主運動」グループを創設。反カビラの旗を振り、ウガンダとルワンダの背後支援を受けて、コンゴ東北部を拠点に活動を開始した。
 続いて、この動きに聞きつけたドミニク・カンク(36歳)もまた、ひと先ず妻と子どもを安全なヨーロッパにおくと、「コンゴ解放運動」グループとして名乗りを上 げ、カビラに戦いに挑むことになった。その結果、今やコンゴでは三つ巴の熾烈な戦 闘が繰り広げられている。この紛争に巻き込まれて、既に170万人の死者がでてい るという。

 現在のところイルンガ率いる「コンゴ民主運動」がやや優勢で、アンゴラ、ナミビア、ジンバブエの支援を受けて南部に陣取るカビラ大統領率いる政府軍を圧倒する勢 いにある。こうした中、カビラは1998年8月、アンゴラ、ナミビア、ジンバブエ、チャドに、劣勢を挽回するために、4000人の援軍を要請している。
 しかもつい最近カビラは北朝鮮にも援軍要請のサインを送り、それに答えて北朝鮮側もコンゴに援軍を送った。それだけではない。北朝鮮はその援軍の見返りとしてウ ランの供給を期待しているという。それが何を意味するかは一目瞭然ではないのか。

 それなのに、日本政府はその北朝鮮に9月1日、「人道的支援」という名目でコメ40万トンを追加支援する方針を固めたという。
 その理由を日本政府は、「10月に予定されている次回の日朝国交正常化交渉に向け、拉致問題などで北朝鮮の前向きな対応を引き出す狙いも込められている」という。
そんな甘い観測外交では太刀打ちできないことは、この北朝鮮の巧妙かつ狡猾な外交姿勢を目の当りにすれば歴然とするはず。

 一体いつになったら、日本はこの甘さ外交から抜けられるのだろうか。


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