weekly business SAPIO 2000/9/21号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《中国「オイル戦略」の背景にある アフリカ諸国との緊密な関係》


 南北朝鮮の接近に伴う統一機運は、今世紀最後のオリンピックとなったシドニー五 輪でも発揮され、開会式では南北朝鮮の合同入場行進が実現した。テレビでこの光景 を見た私はちょうど11年前、「ベルリンの壁」が撤去された当時の東西ドイツ人の歓喜を思い出し、目頭が熱くなった。ここドイツ(=西側)に住み、東西の壁に遮断され離散したいくつもの家族の悲劇を目の当たりにしてきた私は、南北朝鮮における 離散家族の悲劇を想い、その姿を重ね合わせていたからである。

 祝福すべき朝鮮半島の統一機運はさておき、9月7日号の「weekly businessSAPI O」では、そのウラで暗躍する北朝鮮のコンゴにおける不可解な関係についてレポー トした。
 今回はその続編とも言うべきもので、北朝鮮の背後にあって、常に北朝鮮の援護射撃を行なってきた中国を取り上げる。このところ、価格高騰で欧州を引っ掻きまわしている石油を巡り、アフリカ・スーダンにおいて中国が展開している「オイル戦略」 についてレポートしてみようと思う。

  目下、中国はスーダンにおける石油利権で、アメリカを制し、一人勝ちといわれて いる。
 そもそもスーダンに豊富な油田があると想定し、最初にその発掘に乗り出したのは1973年のことである。その後1983年に、スーダンにはイランとサウジアラビアを足した分よりも大きな油田が横たわっていることが確認された。以後この国では油田利権を巡って、熾烈な利権獲得紛争が繰り返され、海外からもアメリカやフランスの石油メジャーが触手をのばしていた。

 ところが、その後アメリカはスーダンをテロ国家として名指しし、国交を断絶してしまった。中国はそのスキを狙ってスーダン政府に食い込み、まんまと石油利権獲得に成功したのである。
 一方、“してやられた”アメリカはどうしているかというと、あの誇り高いアメリカが積極的に中国にとり入り、スーダンの石油利権獲得にありつこうと懸命になっているのだ。
 なぜかといえば、2010年には既存の中東油田における埋蔵量は枯渇の運命にあるからで、この状況下では、アメリカもこのスーダン油田には無関心ではいられないのだ。
 最近では、中国のスーダン石油利権に食い込むために、民間サイド、例えば石油会社AmocoやBank of Americaなど有数の米国系企業が、次々にスーダン油田の窓口である「国営中国石油公社」へ投資競争を行なっている。

 こうした中で、米政府もこの現状を見逃すわけにはいかず、スーダンに対するテロ支援国家の烙印を取り外そうという動きが出ている。スーダンではアメリカの諜報機関であるFBIやCIAによるスーダンとの修復並びに接近工作が活発化しており、同時に、米政府内でも、アメリカ大使館の再設置話が浮上してきているという。

 この中国によるアメリカをさしおいてのスーダン石油利権獲得の裏には、次のような中国による対アフリカ戦略が挙げられよう。

1. 中国は、すでに1960年代からかれこれ30年近くにわたり、着々と長期的アフリカ戦略を推し進めてきた。中国において中華人民共和国が成立したのは1949年10月。そのころ中国はソ連と友好関係にあったが、1950年半ばになると、両国のハネムーン関係にひびが入る。そのころから中国はソ連と一線を画し、独自の外交を展開すべくアフリカへの接近を図る。手始めは周恩来による1963年〜1964年にかけてのアフリカ10か国訪問であり、このころから中国はアフリカ諸国との緊密な関係を築き上げていたのである。

2. その戦略とはただ一つ、欧米諸国の植民地主義からアフリカ諸国を解放するこ と。それには“植民地主義解放は力で”と扇動し、常に“目的のために手段を選んではならぬ”と説き、積極的に中国製武器を供給し、アフリカ諸国に共産主義的イデオ ロギーを植えつけること。同時に、無償の資金提供をし、ときには技術支援(註:1976年完成のタンザニアにおける鉄道敷設等)も行なってきた。

3. 1991年のソ連崩壊により、共産主義大国として唯一生き残ることになった中国は、「アフリカ諸国手なずけ攻勢」を更に強めてきた。その結果、中国はアフリカ諸国から絶大な信頼をかちとることになった(註:来月、北京で開催されるアフリカ親睦イベントには約40か国に及ぶアフリカ諸国の外相と外国貿易相が出席する予定)。これにより、中国はアフリカに眠っている貴重な天然資源の優先的な利権獲得を取り付けることになったのである。そればかりか、アフリカ諸国を中国サイドに付けることで、台湾の国連復帰への動きを妨害する狙いもあるという。

 これで読者は、なぜ中国が日本に対して強気な外交を行なっているのか、少しは分 かっていただけたのではなかろうか。中国の強気は過去の「被害者−加害者」という関係からだけではなく、その背景には「資源を持たず、中東の石油に依存せざるを得 ない日本」という現実的なエネルギー問題における「強者−弱者」の関係も存在して いるのだ。

 9月13日午後、ニューヨークの国連本部で行なわれた河野外相と唐外相との日中会談で、河野外相は「現在の常任理事国5か国の中で、日本の常任理事国入りへの支持を明らかにしていないのは中国だけだ」と指摘し、中国側の理解を求めたたのに対し、唐外相は「中国は開発途上国の代表として常任理事国に加盟している」と、開き 直って見せた。

 こうした正面切っての「正当な」外交を繰り広げ続ける日本は、余りにもお人好しがすぎる。この様な外交を続けていたのでは、日本はいつまで経っても中国にとって の「いいカモ」でしかない。日本が多額の資金援助をする一方で、中国はアフリカ諸国に資金援助をし、恩を売っているのだから。

 将来的なエネルギー問題を考えても、日本は中国に対して、もっと狡猾に立ち回る必要があるだろう。

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