weekly business SAPIO 2000/8/31号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
《欧米の「人道的支援」を逆手に取り偽装難民を送り込む中国の厚顔》
対中外交では及び腰はもとより「土下座外交」で鳴らしてきた河野洋平外相が8月28日から中国を訪れ、唐外相らと会談に及ぶ。その対中外交では、中国側にとっては喉から手が出る程の、日本からの総額約172億円に及ぶ特別円借款供与の了承が、自民党などからの強い反発で難航しているという。
対中国向け政府開発援助(=ODA)が開始されたのは1979年のこと。以後約20年にわたって日本政府が中国に対して行なった供与は2兆8000億円(註:旧日本輸出入銀行の資金援助融資を加えると総額6兆円)で、うち無償資金協力や技術協力は1500億円以上に上っている。ところがその援助事実は中国政府から国民にほとんど伝えられていない。その上、一部では「日本が第二次大戦中、中国に対して行なった侵略戦争の代替えとして当然支払うべき賠償」と見ている気配さえ感じられる。
しかも、中国は過去12年連続で二けたの伸びで国防費を増加し、その武器輸出入攻勢も見逃すことはできない。
ちなみにノルウエー平和研究所の報告書に目を通すと、1994年から1998年の武器輸出ではアメリカ(539億ドル)、ロシア(123億ドル)、フランス(106億ドル)、イギリス(89億ドル)、ドイツ(72億ドル)に次いで、中国は世界第6位(29億ドル)の兵器輸出国であり、と同時に、輸入国としても第14番目に名を連ねている。
そればかりか、8月26日付朝日新聞社説によると、「今春以来、中国の海洋調査船や海軍艦艇が日本近海での動きを活発化させており、うち海軍の砕氷艦兼情報収集艦は、対馬海峡から日本海を北上して津軽海峡を横断、さらに千葉県の房総沖を経て鹿児島県の大隈海峡を通過するなど、ほぼ日本を一周するコースを辿った。(中略)海上自衛隊や軍事専門家の間では、海洋調査船を含めた一連の中国艦船の行動は、潜水艦による作戦行動に備えた、水深や海底地形などのデータ集積に主目的があるのではないか、という見方が出ている」というのだ。
しかもこの不審な行動に対し、8月28日付読売新聞社説によると、「中国側は情報収集艦の航行には、『問題ない』と突っぱねて」おり、「日本側の『事前の同意』の要請に応じていない」とのことだ。日本が対中支援を渋るのは当然のことである。
さて、こうした「軍事的デモンストレーション」とみなしても決しておかしくない行動により日本を威嚇し続けている中国は、その一方で、欧州に対しても、別の形で手を焼かせている。
今回はその欧州における、『人道』を目的とした難民または政治亡命支援という美名のもとに白昼堂々と行なわれている中国の地下組織を通した人身売買攻勢の実態について、とくに日本とよく似た島国イギリスでの偽装難民事情を通して、レポートしてみようと思う。
読者の中には、つい1か月半程前の7月18日深夜、イギリスの港町ドーバーで、フェリーによってベルギーから上陸した野菜運搬用の大型冷凍用トラックから中国人密航者58人が窒息死(うち2人は生き残った)して発見された事件を覚えておられる方もあろう。
卑近ながら、私も、ミラノからフランクフルトへの帰路、ミラノ空港で20人くらいの中国人の一行に出くわした。子どもを抱いている若い母親も混じっていて、どう見ても旅行者には見えない。さっそく私は密かに跡をつけようと、この一行に密着して、フランクフルトの空港に降り立つことにした。ところが、ほんの少し目をそらしている間に、この一行があっというまに消えてしまったのである。
不思議に思って、空港内に備え付けてある政治亡命用の一時収容室を覗いてみたところ、彼ら一行の姿はこの室にあった。係員に尋ねると、「パスポートは持参していないし(多分、空港内からここへ来る間に捨ててしまったか、手引きをした者がどこかに隠して始末してしまったに違いない)、ここまで来れば、彼らの政治亡命志願という目的は9割がた成功したといっていいでしょう」と、まるで他人事のように話してくれた。
「ドイツは地続きでもあり、仕方がない」と、行政サイドでは半分諦めているところがある。その点では海を隔てたイギリスとは異なるのだろうと思っていたら、何の事はない。ここ2〜3年、イギリスでも毎月平均400人の中国人が、偽装難民として密入国しており、昨年はすでに2万人もの中国人がイギリスに渡って政治亡命の申請をしている。
この偽装難民の運搬ルートは5通りある。
1. ロシア経由
2. バルト三国とポーランド経由
3. ウクライナ−バルカン−チェチェン共和国経由
4. ブルガリア−ルーマニア−バルカン経由
5. 中東−北アフリカ経由
とくに中国偽装難民が頻繁に利用するルートは1〜3で、途中のドイツやオランダにいついてしまう中国人も少なくないが、多くはイギリスを最終希望地としている。
また中にはイギリス経由でアメリカを目指している偽装難民もいる。
犯人は組織的に人身売買に手を染めている中国マフイア「蛇頭」。偽装難民の手引きの相場は、現在一人当り約4万6000マルク(=250万円)である。ただし、アメリカを目指している偽装難民の場合は、その10倍を要求するといわれている。
では、なぜ、中国マフイアは偽装難民をイギリスに送り込むのだろうか。
主な理由は二つある。
一つは、地理的要因。日本と違い、イギリスはドーバー海峡と大陸とを結ぶ橋があり、毎日約4000台もの車が往来している。中国マフイアはそのどれかの車の中に偽装難民を紛れこませ、比較的簡単に運ぶことができる。
二つ目は、ロンドンにあるチャイナタウンの一部が中国マフィアの支配下にあるため。この水面下のコネを駆使し、手引きした偽装難民を容易に地下に潜伏させてしまうことができる。
日本に対しては恫喝外交でカネを巻き上げようとし、一方欧米、とくにイギリスに対しては、彼ら欧州人が主張する「人道的支援」のウラを掻いて、ちゃっかり偽装難民を送り込む。
こうしたしたたかな中国外交である。日本はその中国に対し、間違っても、朝日新聞の主張する「相手の立場になって考える。日中の将来のために、そうした態度を双方に求める」などという甘い外交を行なってはならない。たとえギクシャクしても、毅然としてこちらの主張を通すこと。一歩引けば、同時に相手から一歩もニ歩も踏み込まれると思って間違いないからである。
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