weekly business SAPIO 2000/6/29号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《来る21世紀の「2大政党時代」に向けてクリアしなければならない日本政治の問題点》


6月25日、日本で第42回衆議院選挙が行なわれた。
 さて今回の総選挙だが、在外邦人がこれほど日本の国政を身近に感じたことは、日本史上かつてなかったと言っていいのではないだろうか。それは以下のような理由からだ。

 一つは今回から在外邦人も初めて国政選挙(残念ながら比例区選挙のみだったが)に参加できるようになったこと。日本もようやく選挙面で国際化の一歩を踏み出すことになったといえる。
 日本国による今回の対在外邦人一部国政選挙の解禁は、約15年にわたる「海外有権者ネットワーク」による地道な国会への働き掛けが実を結んだものである。憚りながら私も直接関与することになったこの運動は、アメリカ・ロスアンジェルス在住日本人の草の根による国会請願運動からスタートした。私がこの運動の存在を知ったのはずっと遅く1996年ごろだったが、そのころは、こうした在外邦人の切実な請願にもかかわらず、国会サイドは他人事ととらえて一向に動く気配がなかった。そこでしびれをきらせた海外在住邦人53人が「海外投票権訴訟原告団」を結成、東京地方裁判所に投票権獲得のための違憲訴訟を起こしたのだ。時は1996年11月20日のことである。その結果、ようやく国会でも「無視するわけにいかない」という声が出、とりあえず比例区だけでも在外邦人の国政選挙参加を認める法案を可決したのである。
 これは日本憲政史上初の試みでもあり、各地でいろいろと不手際があったと聞いている。しかし最初は不慣れでも、回を重ねていくうちに少しずつ改善されていくと私は思っている。第一、「海外投票権獲得ネットワークの会」は、この比例区国政選挙参加についても「片手落ち」と考え、さらなる小選挙区の投票権獲得を目指し、高裁へ控訴中でもあるのだ。

 今一つは、インターネットと衛星テレビの存在である。在外邦人投票権獲得では、在外邦人たちのインターネット利用と衛星テレビの普及によって横のつながりが比較的スムーズに行なわれ、「海外投票権獲得ネットワークの会」の結束と行動を容易にした。
 しかも今回は、衛星テレビの発達のお陰で、刻々と変わる総選挙の動静がここドイツにいながら、リアルタイムで一部始終視聴することができた。感無量であり、地球も狭くなったものだと思う。

 さて、ここで今回の総選挙の結果に対する当地の反応をお伝えしておこう。

 日本の政治は離合集散が頻繁で、「何がどうなっているのか、さっぱり解らない」という批判がある一方で、「日本の政治もようやく欧米諸国型、とりわけドイツ型政治に移行し始めた。小選挙・比例代表並立の選挙制度導入は、まさにミニ・ドイツ選挙型ともいえべきモノだが、日本でもこの制度導入により、二大政党制度が育ちつつある」と前向きな見方をする者が少なくない。

 また、日本では「今回の選挙で、自民党が後退したのは森失言や公明党との連立がマイナスになった」と指摘する声が多いが、片やドイツでは「これらはあくまでも選挙時のライバル同士の言葉狩りであって、真に受けるようなものでなく、取るに足らない」とし、「それよりも重要で決して見逃してならないのは、世界の潮流から見て、この自民党後退、民主党躍進という現象は、『ベルリンの壁』以後、『空白の10年間』を過ごしてきた日本にも、ようやく本来の民主政治が根付き始めた証しであるということだ。あと2〜3回も選挙を繰り返せば、日本の国会に二大政党政治が確立すると見ていいだろう」と分析している。
 その結果、「来る21世紀の日本政治は、自民党と民主党の二大政党接戦時代に突入するとし、これに少数政党の公明党や、社民党、自由党、保守党が参加して連立政権を組む時代が到来する」と予測する。

 ドイツでも最初はアデナウアーからエアハルトまでは保守による一党政治だった。その後は保守・革新大連合時代を経て、ブラント、シュミット、コール、そしてシュレーダーに至るまで、すべて連立内閣を成立させている。
 ただ、ここで特筆しなければならないのは、こうしたドイツの戦後政治の歩みは、日本とは天と地ほどの格差があることだ。その格差に繋がる日本政治の問題点を以下に列挙しておく。

 一つ目は、安全保障の問題だ。ドイツは戦後政治の中で、保守も革新も、まず何よりも安全保障面だけは国益の立場に立って最優先してきた。ドイツが戦後東西に分断されたことがその理由の一つであり、そのために西側諸国と足並みを揃え、ひたすら彼等との友好関係構築に腐心してきた。つまり、ドイツでは社民党内閣ですら安全保障面の整備は自国を主張するために不可欠とし、その強化に努めてきたのだ。
 例えば脱NATOを主張して憚らなかった緑の党でさえ、社民党と連立政権を組むとまもなく、国際貢献の一端を担うという理由により、コソボ紛争では率先して紛争地にドイツ重装備軍を送り込んでいる。
 ところが日本では、自民党ですら安全補償問題に及び腰で、明確な答えを出せないでいる。こうした点から、「日本においては保守の分野にある自民党でさえ、ドイツの政党と比べれば、緑の党よりも左だ」という風にドイツでは見ている。

 二つ目は、経済政策である。今回の選挙戦で、自民党も、また将来二大政党の一翼を背負うはずの対抗政党・民主党ですら、景気の回復が最大の課題だといい、その大号令を掛けていた。ところが、威勢はいいのだが、それらはすべてお題目にすぎず、何一つ具体的な政策には至っていない。詰まるところ、日本は経済といえばその至上策に拘泥する余り、マクロ的もしくは国際的な視点での大局的経済政策を見失っているのだ。ミクロ的経済のくびきから抜けせず、「井の中の蛙」というのはいいすぎとしても、まるでアリ地獄に嵌まったアリのように出口が見えず、いたずらに堂々巡りをしている。これではいつまでたっても国民を納得させることはできない。

 三つ目は、政治家の資質。日本の政治家にも企業に準じる実力主義(政治の本質をよく呑み込んで、弁舌に長ける)が必要で、無能な政治家は容赦なく切り捨てていくなり幹部に選出しないことだ。閣僚の大半について思い切った世代交代を図らなければならない。

 四つ目は、これまでもくり返し進言してきたことだが、国会は積極的に女性議員を登用すること。でなければ、女性議員当選促進のために、クオーター制を導入する。

 というわけで上記に挙げたいくつかの問題を早急にクリアしないことには、せっかく日本で育ちつつある二大政党政治も、やがて雲散霧消してしまうような気がしてならない。

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