weekly business SAPIO 2000/4/6号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《政治・経済・国際貢献。日本の行き詰まりを解消するヒントは「ドイツ的視点」の中にある!》


今日はドイツへ発つ日である。今回は約1か月余り、日本に滞在してしまった。
 この間またも、嫌というほど痛感させられたことは、日本では、ヨーロッパに関する情報が、アメリカについての情報に比べて絶対的に不足していることだ。

 しかもその少ないヨーロッパ情報の中でも、ドイツの情報はさらに不足している。比較的イギリスやフランスの情報は多いのに、ドイツの情報となると、新聞でいえば国際版の片隅情報で済ませている。
現在、ヨーロッパで最も活発な動きを見せているのはドイツで、このドイツの動きを正確に把握しないことには、ヨーロッパ情勢はもちろん、世界情勢でさえフォローできないというのにである。
 今回の1か月余りの日本滞在で、ドイツのニュースとして目にしたものは、

1. 不正ヤミ献金・資金疑惑ですっかり地に落ちた旧コール政権では、人事刷新の動きがあり、新党首に旧東独出身の女性政治家アンデラ・メルケル氏(45)が選出された。

2. カムドシュ前専務理事引退後、後任問題で揺れていた国際通貨基金(IMF)ではようやく3月23日、欧州連合(EU)が強く推していたドイツのホルスト・ケーラー(現応酬復興開発銀行総裁)を次期専務理事に選出した。

3. ダイムラークライスラーと三菱自動車工業がフランクフルトで共同記者会見を行ない、三菱自動車がダイムラークライスラーから34%の出資を受け入れることで、資本提携を発表。これにより、両社合わせた年間販売台数は600万台を超え、トヨタ自動車を抜いて第3位のグループに踊りでた。

 くらいなものである。
 これらは、そのどれ一つとって見ても、日本にとっては決して見逃してはならない重要かつ参考になる事件なのだ。それなのに、日本のマスコミは、この事実以上には深く立ち入って報道しようとしない。
 ではなぜこれらのニュースが日本にとって重要かつ参考になるのか。一つずつ解説していく。

 先ず「1」について。この女性政治家メルケル氏を党首に選出したキリスト教民主同盟は、日本の政党に例えてみると、自由民主党に近い。保守色が強く、これまでこの党は圧倒的に男性政治家が雄性だったのである。その政党が初めて女性政治家を党首に選出した。しかもその年齢は45歳と若いのだ。
この画期的な決断の意義と効果は大きい。
 振り返って現在の日本における自民党の地盤沈下と旧体質、加えて国民の政治への無関心と不評を思うとき、このドイツの画期的な党首選びは、日本における保守政治の現状にとって、見逃すことのできない事実のはずだ。

「2」については、このIMF専務理事にドイツ人が就いたという点に意味がある。
 IMF発足後、次期で8代目に当たる専務理事だが、この間ドイツは、1度も選出の機会をえることがなかった。ドイツという国はつい最近まで、カネは出しても、ヒトは出したくても出せない国だったのである。その最大の理由はドイツが東西に分断されていたからで、そのために国際的には弱い立場に立たされていたわけである。
 ところが1989年に「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツ統一が達成されるや、その事情は急変した。
ドイツ統一という事実によって、ドイツも晴れて世界の大国としてその仲間入りを許されることになったのだ。と同時に、その後のドイツは、どうすれば世界におけるドイツの地位向上に役立つかを考え、全力でそれに腐心してきた。ドイツにしてみれば、「これまで世界に対し財政的に大なる貢献を行なってきたのだから、今後は世界に向かってその見返りを要求していきたい」というものだ。そのためにドイツはそれに見合った人材を、幅広くしかも大量に育成し、準備万端整っている。
 というわけで、今回のIMF専務理事というポストは、遅まきながら、当然ドイツが勝ちとって然るべきポストだと主張する。

 今回、最初ドイツはシュレーダー政権下の現大蔵事務次官コッホ・ウェーザーをそのポストの適格者として強く推した。ところが、クリントン大統領から彼の実力不足を指摘されるや急遽方針を変え、今度はコール政権のもとで大蔵次官を務めたホルスト・ケーラーを候補に立てることで、ついにこのポストをものにしたのだ。
 一方日本は、アメリカに次いで世界で第2番目といわれる大金をIMFに拠出しているにもかかわらず、今回も一応形だけ榊原氏を候補に立てただけで、専務理事のポスト獲得にまでは至らなかった。当たり前だ。日本では戦後「経済大国=金持ちの国」として、カネによる国際貢献には積極的だったものの、国際的人材の育成を怠った上、国際舞台でのロビー活動には消極的で、人による国際貢献をなおざりにしてきた。その"つけ"が回ってきているのだ。

「3」については、日本がつい10年前まで「是」としてきた日本の伝統的なウチ向き会社体質に"くさび"を打ちつけることになる、その兆候の第一歩と見るべきである。
 これで、戦前戦後を通じて世界に誇ってきた「スリーダイヤ」=三菱もまた、いよいよグローバル化の中で、外国からの攻勢に直接さらされることになるわけだ。
 しかもダイムラーの三菱攻略は自動車産業に止まらない。今や、その傘下にある軍需産業に触手をのばすことは、時間の問題と見られている。

 そもそもダイムラーと三菱の連携話のルーツは、「ベルリンの壁」崩壊後まもなくにある。 当時、この提携話をキャッチしたアメリカが横槍を入れ、水に流してしまっていたのだ。理由は、アメリカの軍需産業がダイムラーと三菱提携に強く反対したからである。この教訓を生かしたダイムラーは、まずクライスラーに接近してここを押さえ、その勢いで三菱を落とすという三段階方式作戦に出たわけである。
 こうしたドイツ型長期巧妙戦略は、第二次世界大戦後、ドイツが仇敵フランスに接近し、半世紀後を経て、EUの実現と確立、そして通貨統合を達成した点にも見て取れる。これこそ典型的なドイツ・マネジメントといっていいものだ。

 日本は確かに、戦後日本的マネジメントによって敗戦国を経済大国に仕立て上げることに成功した。
だが、残念なことに、日本人はこうしたドイツ的な視点に欠けているところがある。しかもこうしたドイツ=欧米事情に日本人の大半は無知だ。
 その罪の大半は日本のマスコミにある。日本のマスコミが、こうした欧米事情を知らせることを怠ってきた結果、いつのまにか日本はカヤの外におかれ、取り残されてしまったのだ。
 そうなってしまった最大の"ガン"は、日本マスコミの談合的な閉鎖体質である。
 この件については、来週の『Weekly business SAPIO』で「教育改革国民会議」や「教育サミット」の記者会見に出席した経験をもとにレポートしようと思う。
 次回を乞うご期待!

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