weekly business SAPIO 2000/4/20号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《「50代の総理」を誕生させなければ日本という国にもう未来はない》


森新内閣が成立して、2週間が経った。
 今回の森総理人選も派閥の親分同士=自民党内のボスが密室で額を集めて協議した結果、決定したというから、日本では相も変わらず、「永田町常識」による男性中心の、欧米の政治意識に比べ月とすっぽんといっていいほどの時代錯誤的政治が跋扈しているということなのだろう。

 さっそくドイツのマスコミの一部では、そうした日本の政治家意識を図る一例として、森新総理の発言語録のいくつか、例えば、大田房江新大阪知事誕生に関して「彼女は美人ではないが、賢いし酒がいける」と発言したことを紹介し、せっかく全国初の女性知事として登場した女性をこのような評価でしか捉えることができない女性蔑視とも受け取れる無神経な森総理の政治センスに疑問を投げ掛けている。

 これは例の石原東京都知事の「3国人発言」にも当てはまる。
 この石原発言を巡っては、1記者の不注意がもとで騒ぎが大きくなり、危うく国際問題にまで発展しかねなかったというので、13日、石原知事による緊急記者会見が行なわれた。席上、石原知事は、「1記者の恣意的な報道がこのような騒動にまで発展した」としてそのいきさつを追求。ついで「3国人」の意味について、辞書では俗称とあり蔑称でないことを明らかにし、誤解解きに努めている。

 もっとも、石原氏は東京都の知事である。その公人たる石原知事が一介の記者に揚げ足を取られ、この石原発言が(いかに粗忽かつ怠慢な1記者の先走った報道であったとしても)、問題発言として大きな騒ぎに発展したことは隠しようのない事実である。しかも、たとえ石原氏に、こうした発言によって世論を挑発する意図があったとしても、その石原発言によって迷惑を蒙るのは、日本国であり、善良な罪のない外国人であり、何よりもその場にいあわせた陸上自衛隊員である。
 だいいち何もわざわざ誤解を生むような表現を使わなくても、他に表現の方法はいくらでもあったはずだ。

 もし、欧米の政治家がこのような発言をしたとしたらどうなるか。たちまち袋たたきに遭うにちがいない。その点では、石原知事も、森総理同様、国際的政治センスに欠けているといっていい。同時に、欧米諸国ではこのような意識の持ち主を一国の首長として、あるいは一都市の首長として仰ぐことを極度に嫌うし、外交上、一対一の真剣な話相手の国として見なさない傾向がある。
 今回の主要7か国蔵相・中央銀行総裁会議(G−7)がまさにそうで、そうした国際世論を反映してか、4月15〜16日ワシントンで開催されたこの会議での欧米諸国の日本に対する対応はさんざんだった。

 一つは会議直前、日銀速水総裁が提示した「ゼロ金利解除」について時期尚早という理由で否定されたうえ、さらなる日本の景気回復を求められた。
 二つは過去2回連続で盛り込まれたにもかかわらず、今回は「円高懸念の共有」の一項が共同声明から削除され、あとは勝手にしろといわんばかりに自助努力を迫られた。
 三つ目は、その週末にはニューヨークの株式相場は大幅に急落したというのに、この株価急落問題には言及せず、逆に「米経済は引き続き力強く、インフレと失業率は抑制されている」との強気のコメントで言い負かされてしまった。そればかりかドイツのアイヒエル蔵相もアメリカに同調し、「これまでの高株価の反動にすぎず、修正時期に入っただけ」とアメリカの肩を持つ発言を行なって、日本に背を向けている。

 その結果、週明け4月17日の東証平均株価は1か月ぶりに1万9000円割れとなり(下落幅は史上5番目)、円高も進んでしまった。これにつられてアジア株式市場もいっせいに下落し、一時はパニック状態に陥ったのだ。慌てた与党はこの株価急落に備えて政府に対し公的資金での株価の買い支えを進言しているのだが。

 こうした中、ドイツの株価は全体的に下落はしたものの、その下げ幅は27.69マルクにすぎず、平均株価は7187.14マルクに留まっている。
 では、なぜ日本ではその株価下落幅が大きく、それゆえに騒ぎが大きくなるのに、アメリカや欧州主要国は比較的落ちついていられるのか。

 これは、一見、森新総理とも石原知事とも何の関係もないように見えるが、海外では、経済=金融は政治家の日頃の言動(今回の森総理や石原知事の言動の様な)と切っても切れない密接な関係にある。それは同時に、今もなお世界の政治や経済は欧米人=白人中心に動いており、彼らの尺度に合わせて行動しないことには、たちまちカヤの外におかれ“いいかげん”に扱われてしまいかねないということを意味する。
 有色人種ではたった1国だけサミットへの参加を許されている日本が、多勢に無勢で不利になるのは致し方がないとしても、欧米人の指針が世界の常識としてまかり通っている現今、日本もまたその常識に追随していくよりしかたがないのだ。

 では、その日本だが、一体今後どうすればいいのか。
 政界の中で第1党である自民党が血を流す覚悟で思い切った政治改革に乗り出し、政治家の意識改革を図ることである。
 具体的には

1. 若い世代人間(40歳代から50歳代まで)に総理の椅子はもちろんのこと、閣僚の椅子を譲ること。

2. 女性の閣僚を少なくとも3分の1にすること。

 むろん、今の自民党でこのような案は到底受け入れられるものではないだろう。実現不可能といってもいい。
 しかしそれをいうのなら、今一度ドイツの政界に目を向けて見て欲しい。
 今回コール・ヤミ献金疑惑ですっかり地に落ち、あわや解党寸前まで追い詰められた保守政党キリスト教民主同盟(CDU)は、革命的ともいうべき思い切った党内刷新を履行し、成功したからだ。

 先ず党役員に世代交代を促し、女性の登用を心がけた。さらに部外者(職業政治家でない者)を積極的に党役員に起用した。
 その上、党首選出では、つい半年前には想像もできなかった人物を95%という圧倒的な支持によって選出したのだ。
 その人はアンゲラ・マルケル女史。彼女は、<1>男性議員中心のCDUにおいて初の女性党首であり、<2>年齢は45歳と若く、東ドイツ出身でもある。さらに、<3>カトリック中心のこの党では珍しく、彼女はプロテスタントで、<4>カトリックでは暗黙のうちに禁止とされている離婚者でもある。

 こうしたキリスト教民主同盟の思い切った党内刷新は、従来のCDUにとっては、清水の舞台から飛び降りるに等しい決断だったといわれる。
 日本の政党も飛び降りるべき時期が来ていると私は思うのだが、いかがだろうか。

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