weekly business SAPIO 2000/3/30号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《大人気の「石原新税」はサミット参加各国からの批判にさらされないか?》


当初、3週間の予定で日本に滞在し、3月21日にはドイツへ発つつもりだったのだが、その後よんどころない急用が出来て、急遽滞在を延期し、今日本にいる。

 シンポジウムや講演をこなしながら、やれテレビ出演だ、新聞・雑誌のインタビューだと多忙の毎日を送っている私だが、その合間を縫って、小渕総理とは教育問題を通して、評論家・竹村健一氏や三浦朱門・曽野綾子氏ご夫妻とは主として私的な面で、頻繁に連絡を取り合い、情報交換を行なっている。
 この他にも、外国人特派員協会で、今年のベアゼロについて鷲尾日本労働組合総連合会会長、税制改正及び東京都の外形標準課税について尾原大蔵省主税局局長、沖縄サミット開催について稲嶺沖縄知事の記者会見が行なわれ、これに出席した。また少しでも多く市井の生活実態を把握しようと、千葉周辺や、阪神大震災5年目を迎える神戸にも足をのばしてみた。
 というわけで、今回はその中で収集した情報をもとに、主に地方の実態についてレポートしてみようと思う。

 国の反撃を喰らうことを百も承知で、石原知事が東京都議会財政委員会で「銀行税」を可決したのは23日のことである。これについてはすでに充分過ぎるほど日本のマスコミが報じているので、ここでのコメントは避けるが、この日、さっそく大蔵省では、尾原主税局局長が外国人特派員協会で記者会見を開き、村山内閣(1994年)以後、小渕内閣までの税制改正について、その経過と背景を説明したうえで、次のようなコメントを内外記者団に対して行なっている。念のために記述するとこうだ(=銀行業等に対する東京都の外形標準課税について=平成12年2月22日、閣議口頭了解)。

1.銀行業等という特定の業種のみに対して外形標準課税を新たに導入すること、資金量5兆円以上の銀行業等に対象を限定することに合理的理由があるか疑問がある。

2.地方税法第72条の19により外形標準課税を導入する場合には所得等を課税標準とする場合の「負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない」とされており、この規定との関係において、東京都案には疑問がある。

3.法人事業税の税額は、法人税の課税所得の計算上損金の額に換算される(法人税法第22条第3項)こと等から、東京都案によれば、実際上、今後、東京都以外の地方団体の法人関係税及び地方団体の地方交付税原資が減少することになる。

4.これまで、政府税制調査会を中心に、47都道府県全てにおいて幅広い業種を対象に薄く広く負担を求める外形標準課税を導入することを検討していている中で、東京都だけが独自に銀行業等という特定の業種について業務粗利益を課税標準として導入することが妥当か疑問である。

5.日本経済の状況を考えると、金融システムの安定を確保することが緊急の政策課題である。このため、金融機関の健全化強化のための自助努力に加えて、国としても公的資金を用い、最大限の取組みを行っているところである。今回の東京都案はこうした金融安定化と整合性を欠くものである。
  東京都案が実施されることになれば、銀行等の自己資本の減少とともに、不良債権処理の遅延、経営健全化計画の履行及び公的資金の返済への支障、金融再編への悪影響、金融機関間における競争条件の不均衡、といった問題が生じることが懸念される。
  また、世界の金融センターを目指す東京金融市場に対する予見可能性、信頼性について、国際的な疑念を招くおそれがある。
 
 いずれもご最もな反論といっていい。
 中でも私のようにドイツから日本経済を観察している者にとって特に心配でならないのは、日本経済もしくは金融が世界の枠組みにがっちりと組み込まれ、その中で政策実施に取り組まねばならない時期に、このような一東京都の反乱によって、その一糸乱れぬ北米(ドル)・EU(ユーロ)・日本(円)の協調にひびが入りかねないのではないか、そのためにサミット加盟国から再び非難を浴びるのではないか、ということである。
 それでなくても98年のアジア金融危機では、日本側の鈍い対応がドイツやアメリカをやきもきさせた。そればかりか、国際金融界から激しい非難を受け、危うく返り血を浴びそうになったことは、誰一人として知らぬ者はいない。その要求に押され、政府は大胆な公的資金導入を実施し、銀行救済に乗り出したのだ。その銀行界の不良債権による深い傷がようやく治りかけ、あと一息で傷口が癒えようとするこの時期、東京都石原知事は「銀行税」導入というアドバルーンを挙げた。下手をすると、これではふりだしに戻らないとも限らない。そうなれば、元の木阿弥である。

 だが、それくらいのことは石原知事とて知らないはずはない。にもかかわらず、なぜこうした税の導入に踏み切ろうとするのか。一口でいえば、そこまで都財政が逼迫しているということだろう。
 バブル景気に浮かれて、見境もなくあのようなバカデカイ都庁という建物、つまり実質のともなわない「入れ物」だけを作ってしまったそのつけが、今になって大きなお荷物となって返ってきているのだ。

 もっとも、これは何も東京都だけに限らない。聞くところによると、日本ではほとんどの地方自治体が多かれ少なかれ財政危機に陥って、一部では市町村も企業合併ならぬ町村合併の時代に入っていると聞く。
 例えば、企業誘致に備えて広大な埋めたて区域を造成した千葉県では、今や企業は縮小傾向にあり、空き埋立て地と造成費用を抱えたまま立ち往生している。
 ある県の某元村長は、「バブル景気を見込み、莫大なカネを継ぎ込んでゴルフ場を作ったが、バブル崩壊と共に接待ゴルフが減少して赤字続き。今度はそのゴルフ場を健康センターにして、老人ホームや身体障害者ホームを建てることにしたものの、その費用捻出に四苦八苦している」と語る。

 今、日本で将来を嘱望され張り切っているのは沖縄県くらいではないだろうか。冷戦後、極東アジアから東アジアにわたる安全保障面における最重要地点(=軍事拠点)となった沖縄は、それゆえに経済発展の約束を取りつけ、7月にはサミットも催される。稲嶺知事も外国人特派員協会の記者会見で、そのことを間接的に匂わせていた。また3月26日の『サンデープロジェクト』における小渕総理と司会者・田原総一朗氏の対談において、小渕総理も慎重に言葉を選びながら語っていた。

 では95年の阪神大震災で、6000人以上もの命を失うなど甚大な被害を負った神戸はどうなのだろう。
 今回神戸市民大学主催の講演とシンポジウム、それに姫路独協大学学長・小室豊充氏との対談の為に神戸を訪れて感じたことは、一応当時の悲惨な面影は影も形もなくなっていたことだ。しかも当日3月18日は、ちょうど淡路島で盛大な「淡路花博 ジャパンフローラ2000」が開催されて活気づいており、その意味では神戸はすっかり復興したように見えた。
 もっとも、この復興はあくまでも外見にすぎないと神戸人はいう。なぜなら神戸市民の大半は三重苦(震災前の第1次ローン+震災後の第2次ローン+不況)、もしくは四重苦(第一次ローン+第2次ローン+不況+心の傷)に苦しんでいるからだ。「何よりも神戸人として残念でならないのは、阪神大震災によって昔の神戸の良さ、面影が無くなったことで、震災前の神戸人が持っていた"隣りの大阪人とは違って、遥かに優れたセンスを持っている"という神戸人特有の誇りが見事に打ち砕かれてしまったことだ」という。

 念のために、その神戸人の1人に、石原知事の「銀行税」について意見を聞いてみた。すると次のような答えが返ってきた。
「えらい勝手なこと言う人やなぁ。うちら、みんな銀行からカネ借りて、やっとこさ生き延びとるんですわ。その銀行に税金かけて銀行行き詰まらせてしもたら、ウチラいったいどないなりますの? ホンマええ加減にせぇ言いとなりますわ」と。

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