weekly business SAPIO 2000/3/23号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
《外国人の「ハイテク技術者」移民を受け入れ始めたドイツに日本は学ぶ必要はないか?》
日本へ帰国していつも最初に受ける印象は、町が非常にきれいだということだ。とくに東京のような1200万人近い人口を抱えている大都市に、目立った落書きもなく、目に付くようなゴミが落ちていないのは驚嘆に価する。
次に感じることは、この国は正真正銘の日本大和民族の国だということだ。これは世界の、とくに産業先進国としては実に珍しいケースといっていい。北米はもちろんのことヨーロッパや一部のアジア諸国でもこうした単一民族で構成している国は一つとしてないからだ。
そういえばあるデンマーク人ジャーナリストが、こんな話をしてくれた。「いつだったか、国会議事堂へ行き、傍聴しようとしたところ、受付で『ニホンゴができない人は傍聴できません。通訳付きで来てください』といわれた。日本側としては、『何でニホンゴの出来ないものが傍聴するの』ということらしいけど、全部(ニホンゴ)理解できなくても、感触で分かることがある。それなのに、いきなりシャットアウトさ。悪気はないと思うのだけど、こんなところにも日本の外人アレルギーの一端が窺えて愉快だった」と。
というわけで、今回はこの愉快な「日本人の外人さんアレルギー」と関連して、小渕首相のもと、河合隼雄氏を長として発足した教育諮問機関が提唱し、早くも不評を買っている「積極的な移民受け入れ」について、考えてみようと思う。なぜなら、高齢化と少子化が破竹の勢いで進んでいる日本では、このまま放置しておくと、必ずやこの問題に対峙しなくてはならない時期がやってくると私は睨んでいるからだ。
それにしても、そのことを百も承知しながら、今なお、この問題を先送りにしている日本。その理由を今回、いろいろな人に当たって尋ねてみたところ、次のような構造が見えてきた。
1. 政治家と官僚にその危機意識が欠落している。
いずれ何とかなるだろうとノンキに構えて、真剣にこの問題に取り組む気力がないのだ。とくにここ2〜3年、政治家を取りしきってきた官僚が、業界との癒着や、汚職、護送船団体質をマスコミによってこっぴどく糾弾されてからというもの、すっかり萎縮し臆病になって、率先して対策を練り政治家に進言する者がいなくなってしまった。
2. 日本は歴史的に、ブラジルなど海外に向かって移民をさしむけた実績はあるが、逆に大量の移民を受け入れた実績がない。
したがって政府にその受け入れ体制もなければ、国民自身にもその準備も心構えもない。そのために日本では移民によるマイナス面ばかりが強調されすぎる。マスコミもまた、どうかすると、移民政策には背を向ける発言に肩入れしがちである。
だからといってこの問題を永久に放置しておいていいというものではない。そうすることによって日本の人口はますます減少し、国の興亡にも大いに関わってしまうことになりかねないからだ。
一部の識者の間では「女性に家庭へ帰って貰おう」との意見があるという。しかし、高学歴ということもあって、女性の社会に対する意識が急速に向上し、加えてインターネットによる情報化時代に突入した今、開かれた女性の多い先進国の女性優位に戸は立てられず、こうした政策は、むしろ女性を敵に回して逆効果になってしまうだろう。
つい最近もある女性キャリアから次のような話を聞いた。
「東京都では経費節減から、従来の『保母一人に新生児3人』が『保母一人に新生児5人』にしてしまうというの。それに女性が仕事をしながら、子育てすると、保育料とヘルプ料が20万円もかかり、自分の給料の3分2まで食い込んでしまうことだってある。その上、子ども一人を一人前にしようと思えば膨大な教育費も掛かってしまう。これでは、結婚しても子どもを産むのを控えようと考える女性が増えるのは当たり前でしょう」
ではどうすればいいか。
実はそのノウハウがドイツにあるのだ。ドイツも一時、この少子化対策では頭を抱え込んでいたが、その後、移民や難民を上手に活用することで、この問題をみごとにクリアして見せたのである。
そのプロセスを第二次世界大戦後のドイツ事情から見ていこう。
1. 最初は1961年の「ベルリンの壁」構築がその原因となった。この「壁」構築で、それまで東ドイツから出稼ぎにきていた東ドイツ人労働力の確保が困難になってしまったからで、そのために、高度成長期の労働力として、最初はスペイン、ポルトガル、イタリア、やがてトルコやモロッコにもその範疇を広げて、出稼ぎ労働者の導入を図った。
2. 1989年の「ベルリンの壁」崩壊とともに、大量の難民がドイツに押し寄せ、ドイツの国内事情は一変してしまった。
とくにベルリンやフランクフルトのような国際都市として生まれ変わりつつある都市では、これまでのように「清潔好きのドイツ人」では通用しなくなってしまった。いくら掃除してもあっというまに町中が汚れてしまうからである。落書きも珍しくない。少し奥まった路地裏では、昼間から麻薬中毒者とデイーラーの取引が堂々と行なわれている。つまり犯罪都市化も確実に進んでいる。
だが一方では、その昔、少なくとも10年前までは深刻と考えられていた高齢化と少子化問題は、彼らを導入することで克服して見せた。
とくに1998年9月、社民党と緑の党連立によるシュレーダー政権が成立して以後、ドイツでは移民法が大幅に改正され、外国人のドイツ国籍取得がより容易になった。
ドイツ人になるには、日常生活に困らない程度のドイツ語を習得し、継続してドイツに8年滞在すればいいだけだ。
彼らはドイツの肉体労働産業上の貴重な労働力であるばかりか、ドイツ国民としての
誇りを持つことで、ドイツ社会の一員として納税義務を果たし、さらにドイツの少子化に歯止めを掛けてくれる。
一方で、今回ドイツ政府は、アメリカの「グリーンカード」方式を導入し、絶対的に不足している3万人ものハイテク先端技術者をEU諸国以外からも呼び込んで、新インターネット産業開発に役立てるという。
その大胆な政策を実施するシュレーダー首相の言いぐさが振るっている。
「アメリカが世界一の強国に成り得たのは、移民政策を成功させて世界中の優れた異質な頭脳と労働力を集めたからだ。欧州が21世紀でアメリカと肩を並べるには、その中心となるドイツが自ら率先してそうした寛大な移民政策に貢献することである」と。
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