weekly business SAPIO 2000/2/24号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO
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クライン孝子 TAKAKO KLEIN
《フランクフルトの国際見本市で気づいた日本企業及び日本人の「元気の無さ」の理由》
ここ2〜3年、日本では個人消費が伸び悩んでいると聞く。やや景気回復の兆しが見えてきたとはいえ、失業率4.9%、失業者300万人を超えていては本格的に景気が回復したとはいえない。先行きが不安では、つい市民の財布のひもは固くなり、消費の低迷につながるからだ。
そういえば、つい最近、ドイツ・ミュンヘン所在のIFO研究所が今年の三大経済圏の個人消費伸び率を予測していた。それによると、西ヨーロッパは約2.75%(ベルギー2.15%、デンマーク1.25%、ドイツ2.25%、フィンランド4.25%、フランス2.75%、ギリシア3%、イギリス3%、アイルランド6%、イタリア2.25%、オランダ3.25%、ノルウエー2%、オーストリア2.5%、ポーランド4%、ポルトガル4%、スウェーデン3.5%、スイス2%、スロベニア3%、チェコ1.25%、ハンガリー3.25%)、米国は約4%と弾き出しているのに対し、日本は1.25%に留まっている。
そんな中、私は恒例のフランクフルト消費財見本市「アンビエンテ」に足を運んでその様子を見てみることにした。この消費財見本市は750年の歴史を持ち、欧州一といわれる見本市で、今年は2月18日から22日まで5日間開催された。
ちなみにこのフランクフルト消費財見本市は春2回、秋1回と合計3回開催され、うち「アンビエンテ」は最も規模が大きい。
今年の「アンビエンテ」の出展社使用全面積は30万平米、出展国は93か国、全出展社は4905社(註:前年4996社)だった。うちドイツは2285社、外国2620社(53%)で、国外出展上位15位までの内訳は、1位イタリア331社、2位フランス225社、3位イギリス165社、4位オランダ151社、5位スペイン142社、6位香港125社、7位中国113社、7位台湾113社、9位オーストリア97社、10位タイ92社、11位アメリカ87社、12位ポルトガル83社、13位スイス71社、14位ベルギー67社、15位デンマーク49社。日本は18位の32社である。
私がこの見本市に足を運び始めたのは1970年代半ばで、今回は3年のブランク後、久しぶりの見本市訪問となった。
まずその感想を述べるとこうだ。
1. 出展社数は昨年よりやや減少したものの、これは一時的な現象に過ぎず、相対的には益々活況を呈している。見本市関係者の話では、逆に1社割り当て出展スペースが拡張傾向にあり、出展希望社も後を絶たないという。そのためさらに2億500
0万マルクを投じ、出展ホールを約4万平米拡張するとのこと。因みに、完工予定は2001年6月30日。
2. 西欧諸国出展社の目がとくに中・東欧諸国に注がれている中、逆に東南アジアや中国からのこの見本市に対する関心が高まり、ドイツはその東西の接点となっている。
3. 西洋家具に東洋の材料を使ったり、和洋折衷のデザインを取り入れるなど消費財にグローバル化と国際化が見られる。
4. 国際消費財見本市が単なる商談の場でなく、国際的な人的交流の場、例えばデザイナーによる国境を越えた情報交換と連結の場として利用され、これが新しいタイプの企業おこしの起爆剤になっている。
例を挙げると、ミラノ在住の日本人デザイナーと、ベイルートに住むフランス人、香港在住のアメリカ人、ベルリン在住のロシア人とで、インターネット上に「スタジオ」を作り、世界各国で開催される消費財見本市で一同集合し、展示、商談につなげる、など。
5. 週末に至っては家族連れ、若者同士の訪れが多い。国際色豊かなレストランを併設し、展覧会、コンサート、ショーなどが開催され、見本市が一種娯楽センターとしての機能を果たしている。事実今年から週末の閉館時間を1時間延長し午後7時とすることになった。
こうした国際見本市に対するフランクフルト市の力の入れようには、当局が、「ユーロ」の拠点という金融の街としての“顔”だけでなく、今後は、見本市の街(註:昨年65もの見本市を開催し、約4万2000もの出展社と290万人もの参列者を呼び込んだ)としての“顔”も、世界にアピールしようとの意気込みが感じられる。
こうした中で、残念ながら、まったく元気のないのが日本である。
今回の出展社総数は32社。バブル盛況当時の約4分の1だ。
その理由について、すでに25年近くこの見本市に出展し続けてきたある顔見知りの陶器メーカー業者に聞いたところ、
「バブルのころは出展依頼の声が掛かると、応募業者が殺到(20業者に対し40業者くらいが応募した)したものだが、今回は3業者がやっと展示に応じた。
バブル崩壊前は儲からなくても、中には骨休みのつもりで出展するほどの余裕と勢いがあった業者も、今はそんな元気などなく、国内で今ある会社を維持するので精一杯というのがほとんどだ。
自分がこうしてフランクフルトまで来るのは、第一線を退いて、年金世代に入り、家でぼんやりしていてもボケてしまうから、その予防と気分転換のため。
ここでの商売? 中国などに押されて上がったりですよ」という。
その一方で、すでに30年以上、この消費財見本市を取り仕切ってきた通産省とその傘下にあるジェトロに対する批判もある。毎年、こうした見本市を開催してきたにしては、彼らにはこれまでこうした問題に対し、真剣に問題提起し、取り組む意欲が見られなかった。
現地トップの任期がせいぜい3年くらい。ようやく現地事情に慣れ、さてこれからという時になって、新トップに代えられてしまうため、現地公的機関に無責任体制が横行している。つまり、せっかく新事業に挑戦しても効果がない(自分の赴任中に仕上げることができない)というので、いつのまにか、何もやらないことが美徳とされ、10年1日のごとく、ただ毎年同じ行事を惰性で繰り返しているにすぎないのだ。
では若い世代はどうか。かつて夫の仕事の関係で3年間をフランクフルトで過ごしたあるデザイン雑誌の日本人女性編集者(38歳)と偶然プレスセンターで会い、その彼女から聞いた話によると、
「フランクフルト見本市の取材で、上司が自分より若い子に声を掛けても、男性も女性も、リスクを負うのが怖くて誰も手を挙げない。そこで最後にやっと自分にお声が掛かった。そのくらい若い人たちは、内向きになってしまっている」ということだ。
もっともその理由は、わからなくはない。彼女はもともと好奇心旺盛なうえ物怖じしない。一度外国生活の経験があるだけに場慣れしている。そのうえ何といっても、英語・独語が堪能で、見本市関係者や出展者と直接交渉してインタビューを取るという取材能力もある。こうした彼女の海外経験とその取材能力の前では後輩の編集者たちもつい尻込みしてしまうのだろう。しかしそれにしても、若さという武器は何物にも代え難い。それなのに、彼らのこの臆病さには暗澹とするばかりだ。
戦後第一線で企業戦士として活躍した人たちは高齢化でボケ防止に懸命となり、役人には無責任根性がはびこり、一方若者たちは(皆が皆ではないけれど)冒険を恐れ闘志を失って殻に閉じこもってしまう。
これは日本にとって深刻な事態というべきである。
こうした中で、今年初めてフランクフルト見本市に挑戦した日本のある出展社の記者会見に出席してみた。400年の歴史を持つ陶器会社だが、そのホンネが聞きたくて「一体、なぜ今ヨーロッパ進出なのか」と質問してみた。「日本文化を紹介した
い」という答えが返ってきたが、私はそれだけが理由ではないだろうと思った。今や歴史や伝統など「ノレン」に頼ってふんぞり返っているだけでは、企業は生き延びることが出来ない。そのことをようやく自覚し、だからこそあえて、「ノレン」という看板をかなぐり捨て、荒波をかぶってでも「生き残ろう」と決心し、大海に小船を出して漕ぎ出したのではなかろうか、と。
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