クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.8
幼稚な大人が子供に訓示を垂れる?    
  昔、小学生だったころ、気が強く近所の腕白小僧を引き連れ、結構、女親分気取りで闊歩して“ええかっこ”していた私が、ある日突然、ライバルの男の子のイジワルで担任の先生に、あることないこと言いつけられてしまった。その挙句、悪者扱いされたばかりか、爪はじきにされ、しばらく孤立してしまった苦い記憶がある。腹立たしかったのは、先生までが男の子の言い分を鵜のみにして、身に覚えのないことで責められ、クラスのみんなの前で、叱責されたことだ。いくら、「それは違う」と弁解しても、一切耳を貸して貰えなかった。そのうえ「女の癖に生意気だ」といわれ、寄ってたかって小突かれ、委員のポストからも引き摺り下ろされてしまった。

 例の東京で開催されたアフガン復興支援会議での国会議員、外務省、官邸の田中真紀子外相への一連の対応を見ていて、「あれっ、これってあの当時の私の立場とそっくりではないか」と思った。
 違うのは、一つは当時私をイジメたのは十歳そこそこの腕白な男の子とその取り巻き連中だったのに、今回田中外相をイジメているのは、れっきとした分別ある国民の代表で、議員バッジをつけている国会議員と、それを支えるエリート外務官僚だということ。二つは私も実は泣きたいほど口惜しかった。泣けば少しはみんなが同情してくれたのかもしれない。なのに、みんなの前では泣かなかった。性格の違いもあるが、当時の私は泣き落とし戦術という女性特有の処世術を思いつくには幼なすぎた。それに比べてさすが政治という熾烈なドロ沼戦場をかいくぐってきた真紀子外相である。小泉首相をして、「涙は女の武器」と言わしめたように、取り囲んだ記者を前にして“泣く“戦術で、またもや大衆、とりわけ女性の同情買いに成功して見せた。

 しかしそれにしても、こんな光景をテレビで見たり、新聞記事で読んだりすると、「日本の大人って、何て幼稚なのだろう」と思う。 国の最高機関に携わっている男性議員に至っては、ちょっと生意気で、気の強い女性が華やかな外務大臣というポストを射止めたばかりに、マスコミまで動員し寄ってたかってイジメている。
 しかも今一つ気になることは、新聞社のインタビューで「お上の言うことはあまり信用しない」とNGO代表が政府批判を行ったというので、外務省とぐるになって、彼らの出席を拒絶しようとした鈴木宗男という代議士の行為である。これは明らかに国会議員を笠に着た弱い者ジメである。ドイツでは考えられないことだ。

 もっとも真紀子外相にも指摘しなければならない欠点がいくつかある。あの傍若無人なわがままぶり! 人を人と思わない思いやりを欠いた傲慢さ! 
 何よりも外相になりたくてなったのだから、少しは外交に明るいのかと思ったら、そうではなくて、就任と同時に不勉強さを露呈し、世界の笑い者になってしまった。よくこれで、外務大臣になりたいと、自ら手を挙げたものだとその恐いもの知らずの度胸には恐れ入る。本来なら、あの米同時多発テロは、日本初の女性外相として、その外交手腕を発揮する絶好のチャンスだったのに。

 結果、とんだとばっちりを受け、窮地に追い込まれたのが日本のNGOだったというわけだ。世界のNGOから、さっそく非難の声が挙がったというが、当たり前だ。 
 いずれにしても、悲しいかな、今の日本には、身体的にはれっきとした大人なのに、精神的にはこどものまんまの幼稚な人間が余りにも多すぎる。
 これでは、大人がいくら子どもたちに、やれイジメをやめろ、真面目に生きろと呼びかけても、耳を貸さない気持ちも分からないではない。

   

to Back No.
バックナンバーへ