クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.6
狂牛病-農水省の怠慢ぶり    

 今日12月1日付けのインターネットを覗いていたら、狂牛病3頭目が群馬で見つかったっという記事が出ていた。 その私は十一月の八日から約3週間近く,日本に滞在していたが、その間、常に「狂牛病」が話題となっていて、「なぜ,今になってこの問題が日本で話題になるのだろう」と不思議でしかたがなかった。

 というのも、私はすでに欧州でこの問題が発生した1995年から再三,この狂牛病について警告していたからである。

 それなのにどうしたものか、当時日本では全く耳に傾けてもらえなかった。その結果がこのざまである。

 なぜ当時日本はこの問題に真剣に取りくまなかったのか。とりわけ農水省の怠慢ぶりには、腹が立ってしかたがない。今少し、世界の動向に注意を傾けていれば、日本にも必然的に狂牛病が輸入されくることは,分かりきっていたはずで、だからこそ、関係官庁は何が何でも,この病気の食い止めに力を貸す必要があったのに。なのにそうしなかった。油断などというものではない。怠慢そのものである。

 というわけで、今回は、今年の一月十日「サピオ」にて掲載された私の警告拙稿をそっくりそのままここに,「欧州を中世のペストのように席巻きした狂牛病に日本も早急に対処せよ」として転載して見ることにする。

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「日本では目下外国産の焼き肉ブームという。とくに若い女性の間で人気を集めている。一九九一年の輸入自由化で安い輸入牛肉が食肉市場に出回り、これに目をつけた外食産業が焼き肉屋開店に全力を注いだからだ。 
 
 止まれ! この輸入格安牛肉だが, ブームに浮かれている日本人輸入牛肉ファンの幾人が、これらの廉価な牛肉が一体どこから輸入され、その牛の飼料は何なのか、知っているのだろうか。 
 
 なぜこうした問いかけをするかというと、実はここ欧州では不治の病“狂牛病”が、まるで、中世時代のペストのように欧州大陸に伝染する恐れがでてきているからだ。元はといえば、この狂牛病の原因は英国にある。“安かろう、悪かろう、だが儲かろう”と踏んだ英国の飼料会社が草食動物である牛に羊の屍を加工した動物性飼料を与えたのがそもそも事件の発端だからだ。
 
 その後廃物利用という名目で、病死した家畜はもちろんのこと、猫やねずみなどの屍、さらには鶏糞をも粉末にし再加工した動物飼料が市場に出回ることになったのだ。
 
 狂牛病はその過程で発生している。八〇年半ばのことで、さっそく英国では数人の微生物学者がこの病気の人間への感染を予知し原因解明に乗り出したものだ。
 
 ところがなぜか当時サッチャー内閣はこの究明には消極的で、研究グループの研究費さえカットしてしまった。政府のおスミ付きで野放し同然となった動物飼料である。飼料会社はここぞとばかり、海外進出を試み、欧州大陸や未開発途上国にも販路を広げることになったのだ。 その結果英国では厄介な狂牛病患者(現在八五人)を抱えることになってしまった。結局この事実を隠し切れなくなった英国政府は一九九五年、ようやく狂牛病の人間感染を認め世界に公表している。食料をふくめ環境問題にはことのほか神経質なドイツである。

 さっそくドイツは,EUに対し、厳しい規制を設け問題解決に当たるよう要求している。だが、当時EUロビーもこの問題解決には乗り気でなく、ねじ伏せられる形で先送りせざるを得なかった。しかもシュレーダー政権成立後はドイツでもこの動物飼料生産は奨励される傾向にあったのだ。
 
 その矢先である。ドイツでも狂牛病に罹った牛が発見され、市民の不安がまたたくまにドイツ全土に広がってしまった。ことここに至ってドイツ政府も見て見ぬふりをするわけにいかなくなった。EUとてこの問題の先送りは許されなくなってしまったのだ。というわけで急遽EUでは農相緊急会議を開き期限付き動物飼料製造禁止を可決し、来年一月から実施されることが決った。となるとどうだろう。日本も安価な外国産牛登場に喜んでばかりいられまい。政府は早急に輸入肉はむろん、輸入肉の飼料追跡調査を行うべきである。でなければ日本はまたもやエイズ血液製剤の二の舞を踏むことになるに違いない」と。

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