クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol. 4
「日本のアジア長期外交へのスタートか」  
 先日、ある地方に住む自民党抵抗勢力の先鋒から次のようなメールが届いた。

 「自民党の山崎拓幹事長のあなたに対する信頼は、格別のものがあると思っています。そこでお願いがあります。これ以上小泉総理の信頼を傷つけるようなことをしないようアドバイスしていただきたいのです。即ち、山崎幹事長の短慮をたしなめていただきたい。今回の『東南アジア歴訪』ではインドネシアのメガワテイー大統領に、小泉総理の靖国参拝について謝罪外交をしているが、何度謝罪すればすむのか? 済んでしまったことは致し方ないが、今後のこともあるので、国の恥をこれ以上かかないよう、アドバイスしていただきたいと思い、お願いいたします」。

 こういう類のメールをいただくと、私は一瞬戸惑ってしまう。確かにここ一年ほど、山崎拓幹事長とは親しい関係にある。とはいえ、私はドイツ在住の身である。氏と頻繁に会って話す機会などないのだ。なのに、一部の人たちの間では、氏と私の間は、まるで何もかもツーカー、ツツ抜けで、それゆえ、ドイツから余計な知恵をつけているように思われているらしい。

 何を隠そう。「加藤クーデター」後、やや落ち込んでおられた氏を励ましたのは事実である。その関係で、氏には、ときどきこれはと思う欧州情報をメールで差し上げている。もっとも、情報といっても、あくまで参考資料程度で、氏の政治に深く影響を及ぼしているなど、大それたことは思ってもいない。

 だいたい小泉総理の靖国参拝一つとってみても、私は8月15日の終戦記念日実施を強力に主張してきた一人である。 にもかかわらず小泉総理が靖国参拝前倒しという決断を下されたのには、その背後で、山崎幹事長による「そうしてほしい」との強い働きかけがあったと聞いている。

 このニュースを知った当初、正直いって、がっかりした。反面、ほっとした気持ちがないではなかった。なぜなら政治は生き物で、ことはそう簡単に運ぶはずがないからだ。

 例えば小泉総理靖国参拝を8月15日に実施したとしよう。恐らく中国辺りから猛烈な反発を招いたにちがいない。「ナニかまうものか」と言うは易し、いざとなるとそう問屋は下ろさない。何がやっかいかといって、中国にはアメリカに引けを取らない諜報機関がある。この機関を通し四方に網の目を張り巡らしスパイを送りこめば、近隣諸国を煽動するなど朝飯前である。

 とりわけ、今回日本は東南アジアにおけるODA10%削減という難題を抱えこんでいた。これなど中国にとっては日本イジメの格好な材料になる。東南アジア諸国を煽動し中国に肩入れするよう仕向ければ、日本はひとたまりもない。

 不満分子をそそのかし、日本国内の撹乱に手を貸すことも出来る。いざとなったら、中国には「大量難民日本送りこみ」というカードを切ることだって、激安輸出攻勢で、日本経済を傷みつけることだってできる。それなのに、悲しいかな、日本にはこの中国に対抗し得る何のてだてもない。致命的ともいうべき弱みは中国にある諜報機関が日本にないことだろう。

 戦後半世紀にわたって、憲法上、軍事といわず諜報機関をなおざりにしてきた“つけ”が今になって返ってきているのだ。

 こうした状況のなか、今回は、ひとまず中国と韓国に譲って内堀を、その上で東南アジア諸国という外堀を固めて、次の手である憲法改正への筋道をつける。その後欧州が半世紀の年月を掛けて「欧州連合」というブロックを築いたように、アジアにもそれに匹敵するブロック作りに着手する。これこそが山崎拓幹事長流の外交戦術であり、狙いなのではないか。

 そうだといいのだが…・と念じつつ、今日は久しぶりに欧州中央銀行の記者会見に出席し、来年早々出回る欧州連合のシンボル「ユーロ紙幣」をとくと拝見してこようと思う。

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