クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.28
   
-小泉再選が告げた派閥政治の終焉-
激動の国際情勢が変化を後押し


 (産経新聞  2003年9月22日「正論」より転載)
  

≪内向き政治の限界を露呈≫

 自民党総裁選では予想通り小泉総理再選が決定した。もっとも小泉再選の勝負は既に九月八日の告示日に決着していたといっていい。その証拠に、翌九日、反小泉勢力の急先鋒(せんぽう)で小泉再選阻止の旗振り役を買っていた野中広務氏が、突如、今期限りで衆議院議員引退を公表、この時点で事実上、小泉打倒の夢は挫折し、その看板を下ろさなくてはならなくなったからだ。

 あとは推して知るべし。最大派閥の橋本派は、まるで糸の切れた凧(たこ)のように空中分解し、支柱を失って右往左往する。善きにつけあしきにつけ、長年、数にものをいわせその威力を誇示してきた橋本派の終焉(しゅうえん)というか、まさに「派閥力学のメルトダウン」そのものだった。

 その理由を、日本の政界通は政党助成金制度や政治資金の規正強化、小選挙区制度導入にあると指摘する。もっとも理由はそれだけに止まらないと私は思っている。二十一世紀に入るや、日本はこれまでとは打って変わって新たな世界情勢=難題に直面しなければならなくなったからだ。この混沌(こんとん)とした時代に、従来の派閥政治センス=日本特有のウチ向き政治では太刀打ちできなくなり、好むと好まざるとにかかわらず、国際的視野に立った大胆かつダイナミックな政治テクニックが求められるようになったのだ。

 とりわけ二〇〇一年九月十一日、米国を急襲した同時多発テロはそのターニングポイントとなった。この世紀の大事件をきっかけに、世界政治のカラーが一挙に塗り替えられてしまったからだ。平たくいえば、二十世紀に台頭したイデオロギー対立の構造は影をひそめ、その代わりに、新たにテロリズムという脅威が芽を出し、世界はそのテロ撲滅強化策に真剣に取り組まなければならなくなった。


≪外交能力を試される日本≫

 前世紀のイデオロギー対立軸は旧ソ連と米国。その対立軸にひびが入ったのは一九八九年の「ベルリンの壁」崩壊時である。直後、ドミノ現象でソ連の隷属下にあった東欧諸国が雪崩を打つように西側体制下にくみし、やがて本家本元のソ連さえも崩壊の途についてしまった。

 残るは中国のみで、しばらくこの二十世紀の置き土産イデオロギー継承国として君臨していたのだ。ところが、あの9・11テロ事件後、中国も国内にテロ問題を抱えている手前、その路線見直しを迫られた。以後、中国は急速に西側に接近しはじめる。今年のフランス・エビアンサミットでは、ロシアの正式加盟決定と同時に、中国も準加盟待遇を受け参加することになった。となると、これまで庇(かば)い続けたテロ国家・北朝鮮とは距離をおかねばならない。

 一九八九年、東独は建国四十周年記念式典後あっけなく崩壊した。原因はソ連最高指導者ゴルバチョフが急速に西側接近を図ったからだ。当時旧東独人は「ソ連のはしご外しに遇って、わが東独体制は消滅した」と激しく非難したものだ。これと同じ現象が北朝鮮でも再現されている。建国五十五周年記念式典を前に、中国の背反で米中露日韓五カ国包囲作戦により、六カ国協議のテーブルにつくことを強いられ、今や風前の灯(ともしび)同然の状況にあるからだ。

 こうした一連の極東における情勢緊迫の渦中にあって、その外交能力を試されているのが日本である。北の一方的な核やミサイル保有、日本人拉致、工作船の出没。一方、国内ではスパイ疑惑のある貨客船入港に加え、覚醒(かくせい)剤・偽造紙幣密輸、工作員や北シンパによる非合法活動などテロ国家・北朝鮮問題は山積している。しかも、どれ一つとっても緊密な国際協力なくしてその解決は不可能である。

≪密室談合政治は通用せず≫

 目下、日本が直面している経済問題にしてもそうで、グローバル化にある今日、不況も世界同時に発生しており、この問題も国際協調抜きではメスの入れようがない。  というわけで、こうした一連の難問をクリアしていくには、従来の派閥中心の密室談合型根回し政治手法=発想では通用しない。これは北朝鮮朝貢外交の失敗によって実証されている通りである。

 そういう意味で過去二年半の小泉政治は、ブッシュをはじめ欧米諸国首脳陣との個人的親交という大胆な外交で国際協調に着手し、一応の成果を上げてみせた。小泉総理再選は、そうした日本政治の国際化に、日本国民が同意し歓迎したからに違いない。願わくばこの小泉人気、その追い風で憲法改正という大事業にも早急に取り組んでほしいものである。なぜなら、憲法改正こそ日本のさらなる国際化に拍車を掛け、その貢献に役立つと思うから。


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